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ハンドメイドという言葉に惹かれて/ハセガワ いすゞ 117クーペ

 いすゞ117Coupeの初期のモデルは「ハンドメイド」と呼ばれることがあります。そう呼ばれる由来は職人が手作業でボディーなどを形作っていたため。この美しいボディーラインを一台一台職人の方が丹念に形作っていたなんて今では考えられません。デザインをしたのはイタリアの工業デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ。フィアット・パンダやロータス・エスプリ、デロリアンなど直線基調のデザインを得意とする彼ですが、この117クーペのように弧を描く丸味を帯びたデザインもしていました。このような造形はどのように形作られたのでしょうか?

 私はデザインが生まれるまでの過程に興味を惹かれました。そんな時に思い出したのは「デザインによって造るのではなく、造ることによってデザインが生まれる」という言葉。この言葉に出会ったのは戦後の日本のデザインの興隆を支えた柳宗理のエッセイの中です。
 柳宗理は「手を動かして物を造りながら考える」というデザイン理念を掲げておられました。粘土をこねて、微調整を重ねながら思い描く形を実際に造っていく。どうやらこの「手作業」という事にヒントがありそうです。
 箱絵を眺めてどのようにデザインの過程を確かめるか思案していた時、車体色が粘土に似ているなと気付きました。こねることは出来ないけれど、粘土に触れる感覚で扱うことは出来るかもしれない。思い立ったが吉日、早速ボディーを塗装してみました。
 選んだ塗料はガイアノーツの「HG-5 ヘキサデザートイエロー」。

 公園の砂場でかつて作った泥団子を回想しながら,砂漠のフレーズが含まれたこの塗料を選びました。当時の職人に思いを馳せ、丁寧に塗料を溶剤と調合した上でボディーに吹き付けました。そうして塗り終えて乾いたボディは艶消しである事も相まってさながら粘土のようです。

 土台を持ちながら塗りムラがないか照明に当てて確認していると、塗る前には気づかなかったボディーを走るパーティングラインを発見しました。パーティングラインはプラモデルを成形する過程で生まれる尾根で,指をボディーに走らせると指先が見つけてくれます。プラモデルだからこその特徴で愛らしいのですが,折角のボディーラインが乱されているのでデザインナイフで丁寧に削いでいきました。すると削いだ塗膜から先程まで隠れていた素地のプラスチックが顔を出しました。

 その作業をしていると,まるで木材の表面を鉋で研いだ時のような新鮮な気持ちに包まれます。出てきた無垢材を上から塗り重ねれば簡単に消せるけれど,なんだかこのままにしておきたい。なぜなら,このまま思考過程を残しておく事ができるのはプラモデルの特権だから。綺麗に仕上げられたピカピカの車体の塗装の下には数多の試行錯誤の痕跡が隠れているのです。

空韻のプロフィール

空韻

フィルムとデジタルを往還する日々を通して,写真表現を模索しています。生活の中でプラモデルを床の間に飾る生け花のような彩りや四季を感じる存在として据えるのが目標。

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