時代を映すタミヤのロングセラー/旧キットから読む恐竜造形の「モード」 。

▲今年で現役40周年を迎えるタミヤ・恐竜シリーズ。発売以来ずっと値段が変わらないのは、子供たちのファーストチョイスを長きにわたって務め続ける矜持だろうか。

 果たしていまどき千円札を出しておつりの出るプラモデルがどれだけあるだろうか。遠い昔、握りしめた小銭で買えたはずの小さなものでさえ、今じゃすっかり立派な値札がついている。

 タミヤの恐竜シリーズ、トリケラトプス・ステゴサウルス・ティラノサウルスはいずれも500円(ティラノサウルスのみ600円・消費税別)。驚くことに初版がリリースされた1981年から変わらない値段のまま、今日も模型屋さんの片隅に並び続けている。今でははるかに新しい設計で、よりリアリティにあふれた造形の「恐竜世界シリーズ」が同じく店頭に並んで、古い恐竜シリーズほどではないながら十分手頃な値段でよく売れているという。

 1993年の映画『ジュラシック・パーク』以降の緻密でリアリスティックな恐竜たちの姿にすっかり慣れてしまった僕たちにとって、今年現役40周年を迎えた恐竜シリーズは単に時代遅れの、安い値段だけが取り柄の駄プラモにすっかり落ちぶれてしまったのだろうか?

▲メリハリのある彫刻は健在。金型はよく手入れされ、歳月を感じさせない。1981年の発売順はまずこのトリケラトプス、次いでステゴサウルス、最後にティラノサウルスだった。

 恐竜の模型には、じつは「モード」がある。

 時は遡って1958年、今はもう存在しないパイロというアメリカのプラモデルメーカーが、初めて恐竜をプラモデル化した。当時はティラノサウルスといったお馴染みの名前さえ難しい専門用語で、ティラノサウルスは「タイラント・キング」、ブロントサウルスは「サンダー・リザード」といった具合に、ずいぶんとキッチュな商品名がつけられていた。

 初めはそれほどヒットしなかったパイロの恐竜プラモデルは、1968年に大きく様変わりを果たす。子供だましの商品名はいずれもティラノサウルス・ブロントサウルスなどと改められ、コリトサウルスやプロトケラトプス、アンキロサウルスといった新顔までラインナップに加わった。

 ……というのも、1964年ニューヨークで開催された伝説的な万国博覧会に、アメリカ石油大手のシンクレア石油が「ダイノランド」なる実物大の恐竜スタチュー(彫塑で作られた巨大な立体物)を取り揃えたパビリオンを出展し、来場者の熱烈な喝采を集めたことがその背景にはあった。いわば第一次恐竜ブームの到来であり、早くからその種を撒いていたパイロは、突如メジャーな人気語彙となった○○サウルスをすかさず自社製品に反映させたわけだ。

 万博が終わった後、ダイノランドを大いに賑わせた実物大の恐竜スタチューたちは、会場の熱狂をそのままに、その多くがさまざまな公園などに請われて旅立っていった。万博ダイノランドのスタチュー制作に腕を振るった造形師、ルイス・ポール・ジョナスに新たなスタチューの制作依頼をする企業や個人は引きも切らず、かくして全米に星の数ほども実物大の恐竜スタチューが林立するに到った。そのいずれもが万博ダイノランドに範を求めた「モード」だったことは言うまでもない。

▲王者ティラノサウルスを組み、タミヤ・ファインサーフェイサー・ピンクをたっぷりと吹きつける。カリフォルニア州カバゾンにある巨大なブロントサウルス像は、ひと昔前まではまさにこんなピンク色に塗られていた。

 タミヤの恐竜シリーズは、そんな時代の恐竜の「モード」を正確に写し取っている。トリケラトプスもステゴサウルスもイボだらけで、ティラノサウルスは尻尾を下ろし直立し後頭部は丸い(1966年に封切られて大ヒットした映画『恐竜百万年』に登場する恐竜たちの姿を知る人はどうか思い出してほしい)。レイ・ハリーハウゼンが「魔法」によって活き活きと甦らせたあの恐竜たちは、タミヤの新しい「恐竜世界シリーズ」に見るいかにもリアリスティックな姿ではなく、むしろ「田宮模型・恐竜シリーズ」の姿そのものではなかったか。

 今もアメリカ各地に古びながらも立ち続け、あるものはホテルやダイナー、ガスステーションやトレーラーパークの看板として仕事を続け、それぞれの風景に溶け込みつつ静かな余生を送る「ダイノ」たちと、模型店の片隅で誰かの手に取られるのを今日も静かに待ち続けるタミヤ恐竜シリーズのプラモデル3題。彼らには今の人々が何かしら特別な思いを込めて「旧車」と呼ぶものにどこか似た魂が宿ってはいないだろうか。

▲ティラノサウルスの退化した前肢は、名刺サイズのプレートを持たせるにはとても具合がいい。モーテル、ダイナー、ドライブインシアター、ボウリング場、トレーラーハウス……彼らは決して仕事を選ばない。

 もしあなたの手許に、ふとグランドツーリングに出かけたくなるような古風な車のプラモデルがひとつでもあったなら、ぜひそのかたわらにタミヤの恐竜シリーズをひとつ添えてみてほしい。時代遅れであることがいっそ誇らしい、ロードアイコンとロードサイドアイコンの幸福な再会があなたの目の前できっと果たされるはずだから。

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1972年生まれ。元トライスタージャパン/オリオンモデルズ、旧ビーバーコーポレーション勤務を経て、今はアメリカンカープラモの深淵にどっぷり。毎週土曜22時から「バントウスペース」をホスト中。