バンダイスピリッツが贈る「最新のティラノサウルス骨格プラモ」が宙に浮いている理由。

 初手から「どうやって組めばいいのかわからない!」と思わず声を出してしまった。慣れ親しんだガンプラなら「手足や胴体や頭があって、それぞれのユニットはだいたいこんな分割だろう」というのが色やカタチから直感的にわかり、説明書の支援を受けながらそれを組んでいくが、いきなりのティラノサウルス。色分けなし。全部茶色。骨格だから、パーツに”内側”(完成したら見えなくなる場所)も”外側”もない。パーツの向きを判別する方法も、ハメ合わせる仕組みも、これまで培ってきた常識というものが通用しない。

 ……「だから難しい」と言いたいのではない。やはり新鮮な組み心地は脳に新しい刺激が加わって、すごく楽しい。「いったいこれからどんな旅が待っていて、最後にどんな景色が待っているのだろう」というワクワク感は、たとえば「通い慣れた観光地に行って目当てのメシを食うワクワク」と異なる性質を持っている。

 この夏の最新キット、イマジナリースケルトンシリーズのティラノサウルスは1/32スケール。タミヤからは肉も皮も付いたティラノサウルスが発売されているが、それより少々大きく、こちらは骨格だけ。完成すると40cm近い巨躯となるが、バンダイスピリッツならではの巧みな設計でスルスルと組み上がっていく。可動モデルではなく固定ポーズなので、パーツ数も抑えられているし複雑なギミックを組む煩わしさもない。

 旅のガイドとなるのは説明書だが、もうひとつ、肉食爬虫類研究所代表の富田京一氏が監修した「”現存古生物”恐竜論」というブックレットが同梱されている。この編集がすこぶる緻密で、唸らされる。化石でしか観測できない恐竜という存在がいままでどのように研究されてきたのか。その180年の研究史の果てにある、いま最もナウい恐竜論がフルカラーの図版入りで綴られているのだ。

 当然プラモのほうにもその成果はしっかりと反映されており、骨格を形状的に捉えて模型化するというよりも、文字情報と立体情報を突き合わせながら組むことで「なるほど!」と知的好奇心を満たすことができるようになっている。詳しく書いてしまうとこのキットを手に入れる意義が薄れてしまうのでその具体的な内容は割愛するが、この製品のポリシーを伝えるにあたり、最たる特徴を示しているのがこのキットの完成形だろう。

 B5サイズほどの台座から伸びる透明の棒。完成したティラノサウルスの骨格はその先に固定され、宙に浮いたポーズでディスプレイされることになる。バンダイスピリッツはなぜこのティラノサウルスを得意の「可動モデル」にせず、さらに空中に浮かんだ姿勢でキット化したのだろうか。答えは先程のブックレットのなかにあった。

 これは1897年にアメリカの古生物学者であり、恐竜画家であったチャールズ・ナイトによるラエラプス(現在はドリプトサウルスと呼ばれ、ティラノサウルスの親戚に当たる)の想像図。「恐竜というのはノシノシと歩いて鈍重なものなのだ」という常識を覆すべく描かれたこのイラストが、むしろ恐竜の生態として真実に近かったのではないか……という論調は、戦後の恐竜ルネサンスと呼ばれる時代になってから一般的になった。ナイトの先見の明、そして後世の人々の研究と再評価。この絵は恐竜を研究する者が取るべきアティチュードを後世に語り継ぐアイコンでもあるのだ。

 可動と色分けを最大限にアピールすることで「進化」を喧伝してきたバンダイスピリッツのプラモにおいて、このティラノサウルスの骨格模型は極めて異端だ。動のポーズをあえて無可動で空中に静止させ、恐竜そのものはもちろん、その存在がいかなるものかを追い続ける人々へのリスペクトも内包しながら、われわれユーザーに古くて新しい存在としての恐竜の姿をテキストと模型で届けてくれる。あらゆる意味で夏休みの豊かな時間にマッチした、パーフェクトに近い一品だと言えるだろう。

 ちなみに対象年齢は15歳以上。かなり尖ったパーツもあるので、キットの扱いには気をつけられたし。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。