「人はなぜプラモデルに汚し塗装を施すのか」の問いに全部答える必読の書、出ました。

 一昨年、ロサンゼルスでスペースシャトルを見た。

 地球と宇宙を何度も往復して異常な高温になった機体の表面がどうなっているのかを肉眼で見たのは初めてのことで、そこで「オレがそれまでスペースシャトルのプラモをどうしても作れなかった理由」がわかった。その日まで、スペースシャトルがほんとうはどんな色をしていて、どこがどんなふうに汚れるのかなんてわからなかったからだ。

 つまり、リアルなスペースシャトルを作りたかったら、リアルにスペースシャトルを観察するしかないな……と思ったのである。人間、知らないものは作れないし、知らないものを人に伝えることはできない。

 いきなりだけど、この写真はプラモデルを塗ったもの。すっげー!リアルー!って思うよね。もしかすると「飛行機がこんなに汚いわけないだろ」と怒る人もいるかも知れない。まあ本書を開けばわかる。実物戦闘機の写真も信じられんくらい汚い。塗料はガビガビ、油やらススやら鳥の糞やら、とにかくもうすごいことになっているのだ。

 空港で見る旅客機はピカピカに見えるけど、よく観察すると案外汚れている。実機のパネルの継ぎ目なんてほとんど見えないんだから、「スミ入れ」なんてリアルじゃないという意見もあるけど、こうやって見ると案外パネルラインはクッキリ黒い線として見える。こういう写真が撮れると、「模型でもこれくらいの表現はしていいんだな」と安心したりする。

 なんでこういうことを考えながら実機を見ているのかと言うと、プラモを作る楽しみの大きな要素として、「実物みたいに見える!」というワンダーがあるから。本当にリアルさを求めるなら、実物の汚れをそのままギューッと縮小コピーしてプラモに貼り付ければ超リアルに見えるだろう、と思うかもしれない。だけど実際はそんなことできないし、でっかい実物と小さい模型では、見え方も陰影の付き方も全く違うから、模型には模型の「らしさ」を付け足すことが必要だ。

 これはオレが生まれて初めて実物の写真をめちゃくちゃに観察して、なんでそうなっているのかを考えて、そう見えるように汚し塗装をしたプラモである。「汚し塗装はこうやってやります」というハウトゥを読んで「ふーん」と言いながらそれを真似していたのとは、明らかに違う仕上がりになって、当時は自分で驚いた。

 「らしさ」とか「そう見える」というのは、他人の記憶をノックして、呼び出すための鍵だ。とは言え、お手軽な汚し塗装用のツールやマテリアルが直接鍵になるのではない。それを使って「見たことある(気がする)」と思わせられる塗装をしなければ「リアル!」と思ってもらうことはできない。

 幸い、僕らは戦闘機やスペースシャトルや旅客機の腹をつぶさに見たことがなくても、オイルやススや鳥の糞を見たことがある。インターネットに繋げば実機の写真がゴロゴロ転がっている。見たことあるものの手触りを、見たことがないものと重ね合わせる。記憶の扉が開いて、「ああ、本当にありそうだな」と思えるものになる。

 ……みたいなお話は、模型めっちゃうまいアニキこと横山宏氏がめちゃくちゃわかりやすく書いてます。人類の脳の構造から、色と光の仕組み。そして模型を長く楽しむための秘訣まで、簡潔かつ痛快にまとまっていて、このテキストを読めただけでも幸せいっぱいになれる。模型を作るすべての人が読むべき名文だ。

 『スケールアヴィエーション』最新号は、巷にあふれる「どうやって汚すか」のハウトゥ本ではない。人間はどうしてプラモに驚くのか、実物を見て何を素敵だと思っているのかを解き明かしながら、「なぜ汚すのか」に迫る一冊だ。天候や時間の流れや偶発的なアクシデントが積み重なった痕跡(=汚れ)を、人間が人為的に、作為をもって再現する(=汚し)。そのための観察力と抽出力にこそ、ウェザリングの真髄がある。マスターと呼ばれるモデラーたちが、手技としてのテクニックだけでなく、なにを考えているのかを垣間見ることができれば、貴方のプラモライフは確実に豊かになるはずだ。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。