「執拗さ」と「基本」が一枚のポートレートのように/タミヤの新・ケッテンクラートにのめり込む。

 アウグスト・ザンダーという写真家がいます。

 詳しいことは僕も知らないのだけど、写真集を買ったきっかけは服好きの友人から勧めれたからだったと思う。友人は僕に「いろんな職業の人の写真を撮った写真集があるから、買ったほうがいい」と教えてくれた。その程度の知識。とはいうものの表紙の写真はかなりかっこいいというか、人生がある。人が働いているところが写真として記録に残ることは、この現代では大分減ったのではなかろうか。私も今の職場では、働いているという記録が写真としては残っていない。

 タミヤがリニューアルしたケッテンクラートは、そういう「人生の記録」みたいなものを感じる。キット自体は執念深くエンジンを再現していたりとか、履帯を作った後にパッドをさらに貼り付けるという「走り込みが終わったと思ったらもうワンセット走ることになる」みたいなタフな時間が流れる部分があるのだけど、それにしても出来上がったときの重厚感は再現への執拗さが積み重なった良さがある。キットそのものの魅力もあるのだけど、それとは別に「ケッテンクラートをリニューアルするならここまでやろう」というタミヤの意地みたいなものもありそうだ。

 ケッテンクラートがどれくらいのスピードで走るのか、僕は知らない。

 ただ、ケッテンクラートがこの瞬間どれくらいのスピードで走っているのか、随伴する二人が教えてくれる。乗り物の周りにどういう状態の人がいるかによって、乗り物自体がどれくらいの速さで走っているのか(あるいは止まっているのか)を表現するのは情景作りの基本なのではなかろうか。

 車両の執拗な表現と情景の基本を押さえたフィギュアの組み合わせの新ケッテンクラートは、アウグスト・ザンダーの写真集に映る人々のように、タミヤの模型人生を凝縮したプラモデルだと思う。リニューアルしても変わらないところ、変えたいところ。どっちも意味があってそれが手元に生まれるこの感じ。最高です。

クリスチ
クリスチ

1987年生まれ。デザインやったり広報やったり、店長やったりして、今は普通のサラリーマン。革靴や時計など、細かく手の込んだモノが好き。部屋に模型がなんとなく飾ってある生活を日々楽しんでいます。
Re:11colorsというブログもやっています。