
子どもの頃、父親の部屋には2つの大きな模型があった。どちらも製作途中だったが、作業をしていた姿はついぞ見たことがなかった。
ひとつは帆船模型のカティサーク号。木製模型だ。
もうひとつはポルシェ935 マルティーニ。大きな箱だった。
白いボディに青と赤のストライプが走ったカラーリング、そしてパッケージに描かれた透視図に心を躍らされた。

おそるおそる箱を開けてみると、シャーシとエンジンの一部が組み立てられた状態で、ランナーにはまだ沢山のパーツが残っていた。子ども心にも、「これはおとうさんでも作るのが大変なプラモデルなんだな…」と感じたことを覚えている。そういえば、親父は酒が好きで、よくどこからか珍しい舶来の酒を手に入れてきていた。
どちらの模型も、酒が関係しているキットである。親父が酒好きになった起源がなんとなく垣間見えた気がして、微笑ましくなった。やはり模型は物事を繋げる架け橋なんだな。

昨年末、タミヤ 1/12スケール ポルシェ935のキットが再販された。私も大人になり、模型製作のスキルもそれなりに身につけた実感はある。普段カーモデルは作らないが、今なら思う存分楽しめる自信がある。やはり父親の意志を継ぐのは息子であるべきだ。このキットを完成させるのは俺だ。

手元に届いたあの時と同じ大きな箱は、やはり私の心を躍らせてくれた。と、こんな文章を書いたものの、父親はまだ存命である。
先日、ケーターハム スーパーセブンBDRのキットを買ったと連絡があった。これまたビッグスケールのキットである。死ぬまでには完成させると気を吐いていた。親父とは、しばらく直接会えていない。
お互いの完成品とグラスを並べる日が早く訪れるよう、願うばかりである。