「模型のメディア論」の原型誕生を追う。〜模型のメディア論 著者/ 松井広志インタビュー

”時空間を媒介する「モノ」”、これは「模型のメディア論」の副題です。この「モノ」ってどんな特性を持っていると思いますか?

 皆さんの目の前にある、あるいは触っている「モノ」があるとおもいます。プラモデルじゃなくてもボールペンでもスマホでもマウスでも構いません。その「モノ」ってどんな特性を持っていますか? 「モノ」が持っているのは、実は単なるデバイスや記号という特性だけではないのです。 松井さんの生い立ちや興味を持たれた事を知ると、「模型」という「モノ」を研究対象にされた理由、そして「モノ」だからこその模型の楽しみ方 が見えてきます。松井さんの生い立ちをお聞きしつつ「モノ」に迫ってみましょう。

▲模型を目の前にして、子供時代から「模型のメディア論」成立までを語っていただいた

 まいど! 小学生から高校生くらいまで、何か熱中したものや引っ掛かりを感じていたものはありますか?

 松井 小学生の頃からプラモデルやゲームが好きでした。ガンプラなら世代的に小学生の頃は「SDガンダム」をよく作ったことを覚えています。アニ メのガンダムで印象深かったのは「機動戦士Vガンダム」になります。その当時ホビージャパンでVガンダムのMSV特集みたいなものがあったように 記憶しています、模型ならではバリエーションの提示を行うという事が印象的でした。

まいど! スケールモデルは作られていたのですか?

松井 作っていました。印象的なのはゼロ戦(零戦)です。それも戦記物からではなく、「プラモデル屋さん」で知りました。ゼロ戦とか大和はその後で もちろん学校の歴史の授業とリンクしていくのですが、最初にその存在を知ったのはプラモデルからです。

▲こちらはまいど!作のピットロード 1/700大和。松井さんは大和もプラモデルという「モノ」から知ったという。まいど!の場合は宇宙戦艦ヤマトから大和を知った

 まいど! プラモデルという「モノ」が先行していたわけですね。私ですと「宇宙戦艦ヤマト」や「エリア88」から戦艦や飛行機を知ったと思います。ではプラモデルとゲーム以外で何か熱中されていた事はありますか?

 松井 この2つが中心でした。ただ、しゃべるのは好きで、小中とも放送委員会はやっていました。みなさんのお便りから曲を選んで放送していまし た。少し分析的になるのですが、放送にしろ模型にしろ、ゼロから何かを作り上げるというよりも、何か既存の素材や題材があってそれらを組み合わせる方が好きだったのかもしれません。

 まいど! 読書もお好きと聞いているのですが、大学生になるまでに読まれた本で印象に残ったものはありますか?

 松井 一つ挙げるとすると、大塚英志さんの「物語消費論」(1989)です。この本ではビックリマンチョコを例に「メディア」としてチョコやシール が捉えられています。消費の本体は断片的な「小さな物語」が描かれたシールから想起されるビックリマン世界の「大きな物語」であって、チョコは ビックリマンの世界観を菓子の流通網に乗せるための単なる媒体にすぎないということです。世界観の断片のビックリマンシールから大きな物語を想 起するというわけですね。

▲これは2001年に加筆され再販された「定本物語消費論」

 まいど! 模型のメディア論でも少し触れられていた理論ですね。私の時代ですと聖闘士星矢のチョコスナックが近いのですが、聖闘士星矢チョコスナ ックは漫画のグッズなのに対し、ビックリマンはシールが先でチョコの発売より後にアニメ化したという違いがあります。売り場のための方便のチョ コというのは現代の食玩にはそのまま当てはまります。神戶大学〜大阪市立大学大学院へ進学された理由を教えてください。

 松井 社会学や哲学に興味を持っていたので神戶大学の文学部に進み、卒業論文はフランス革命期の社会思考でした。神戶大学在学時からメディア論や ポピュラーカルチャー研究に興味を持ったのですが、その当時関⻄の文化社会学やメディア論研究で先駆者的な仕事をされていた石田佐恵子先生が関⻄というか大阪市立大学におられたので、大阪市立大学大学院に進学しました。

 まいど! 在学中の論文などで「模型のメディア論」に繋がるものはありますか?

 松井 「模型のメディア論」の理論部の一部に含まれる修士論文です。修士論文はインターネット社会あるいは監視社会に関するテーマでした。ただ、 その当時から模型は好きでしたし、今でも書くのはちょっと手間がかかっても万年筆だったりします(笑)。「モノ」への興味というのは持ち続けていました。

 まいど! 私も普段は万年筆を使用しています。万年筆は見た目の美しさの満足度もありますが、書くときの感触は工業製品なのに個体差も大きいのです。いわゆる「書き味の違い」ですね。更に⻑年使用しているうちに書き手の癖にペンが合ってくるのです、「この」万年筆という「モノ」へのこだわりが強くなる筆記具です。

▲万年筆はインク補充が必要で、ボールペンに比べると圧倒的に手間がかかります

▲まいど!が使っている万年筆。プラチナ万年筆3776センチュリー。上はロジウムフィッシュ ブラックダイヤモンド、下が標準モデルのシャルトルブルー。この2本は同じ性能のはずなのに書き味は全く違います
▲松井さん愛用の万年筆。実はまいど!と同じ3776センチュリーだが、屋久杉使用のスペシャルモデル。モノへのこだわりを感じる

 まいど! では、「モノ」へのこだわりが現在の研究につながった部分はありますか?

 松井 「模型のメディア論」の原型となる博士論文がまさに「モノ」を扱っています。〈メディアとしてのモノ〉の文化社会学:日本社会における「模型」の形成と変容を中心に。を書き上げました。この時点でプロトタイプ「模型のメディア論」といえるものが完成しています。

 まいど! 「模型のメディア論」の重要な視点として、「物語からモノ」ではなく、「モノから物語へ」という方向性があると思います。この「モノゆえに物語」に当てはまる例を教えてください。

 松井 おっしゃる通り「モノ」ゆえの「物語」というのは「模型のメディア論」で最も強調した部分のひとつです。これは生起する順番がポイントに なります。「物語消費」は物語をモノによって再現するという事になります。そうした捉えかたと比較した場合、「モノゆえの物語」の場合は「モ ノ」が先行しています。最近の例ではコトブキヤの「フレームアームズ」やバンダイの「30 MINUTES MISSIONS」の組み換え遊びが挙げられま す。また、前回の記事の最後でもある美術用品や日用品を模型と組み合わせる楽しみも、「モノ」からの発想ということになります。


▲まいど!作 ファインモールド 飛行戦艦「「ゴリアテ」、物語消費的に言えばこのゴリアテのプラモデルで、ラピュタのムスカの名台詞「見ろ!人がゴミのようだ!」という物語を臨場感を持って思い起こす事ができる

 松井さんが「モノ」にこだわってきた理由と「モノ」には物語を生み出す力すら持つ事が改めて分かりました。実物の背景を知らくなくてもカッコいいからプラモを手に取る。自分が見ている山と同じ名前だからプラモを手に取る。それを作ることでさらに何かが生み出されるかもしれません。プラモデルは「モノ」だからこその特性を持っています。プラモデルという「モノ」を自由な発想で製作すれば、さらに「物語」すら自由に作り出すことが出来ますよ!

まいど!
まいど!

艦船・航空機・AFV・自動車・キャラクターなどジャンル問わず楽しんでます。モデルアート社各誌でも活動中。