半世紀前のプラモデルと仲良くなって、「ねばならない」をやらない日。

 模型店を歩いていて、何でプラモデルを選ぶかと言えば結局パッケージ。プラモは本質的に「ジャケ買い」の遊びだ。ごていねいにパッケージの中身を作って「こんなキットですよ」と紹介してくれるサイトもたくさんあるけど、自分がほしいプラモの名前を検索している時点でその出会いは完全なる偶然じゃない。パッケージがとんでもなく魅力的だったら、中身はどうあれ「たぶん完成するっしょ」というのがプラモであり、この「たぶん」がどれくらいの確度なのかがスリル&サスペンスなのだ。

 ということで、ドイツレベルのロゴが入ったTa152Hである。アメリカの爆撃機がバンバカ飛んでいる高高度で、ダイブしながら機関銃を一閃。特徴的な長い主翼は絵のフレームから左右ともにはみ出している。値札を見たら「税別810円」という驚異的な価格で、これは「たぶん」の度合いがめちゃめちゃ大きい……つまり、すっごく古いキットなんだろうなということが推測される。

 帰って調べてみたら、このプラモデルの初登場は1968年。フロッグというイギリスのメーカーからビニール袋入りで売られていたイニシエの品である。当然プラモは同じモチーフが何度も違うメーカーから製品化され、(ふつうは)時代が下るにつれ「出来の良い」ものになっていく。それと並行して、こんなふうに化粧直しをされながら生きながらえている老獪も混じっているのだから、油断も隙もない。

 さて、こういう古いキットは「パーツが合わないんでしょう」「コクピットもろくに再現されていないんでしょう」「そもそも、似てないんでしょう」なんて言われがち。じゃあ合うように削りましょう、コクピットはプラ材から自力で再現しましょう、似てないアウトラインはパテを盛って削り込んで、不格好なパネルラインは全部タガネで凹んだ線に彫り直しましょう……。本当に?

 Ta152の正確なレプリカが欲しいなら、今はスーパーキットが手に入る時代。もっさりとしたパイロットのおっさんも言っている。「ワシよりもシャキッとしたプラモを作りたければ、新しくて正確なのを買うんじゃ……」と。たとえば造形村の1/48キットなんて、実機と同じなんじゃないかというくらい細密にパーツが再現され、機体の中身も気が済むまで作り込むことができるパーフェクトグレードみたいな存在だ。

 810円+消費税で買ったプラモ。趣味の時間は時給換算したくないけど、810円分くらいの時間で楽しむ日があってもいいだろう。合わせ目消し、いたしません。パネルラインの彫り直し、いたしません。適切な塗料の希釈とマスキング、いたしません。いいの。今日は「説明書に書いてあるとおりにプラモを作って、できたプラモを眺めたい」という日なのだから。

 言われたとおりに貼って、言われたとおりに塗る。適当に溶剤を含ませた筆を塗料瓶に突っ込んで、ペロペロと迷彩のようなものを描く。デカールはイタリアのカルトグラフ社製(おそらく地球でもっとも高品質なシルクスクリーン印刷技術を持った最高のデカールメーカーだ)。「大当たりじゃん!」と叫びながら、でっかくて目立つマーキングを貼る。いやあ、細かいところを見始めたらパッケージアートとは似ても似つかないな……なんて最初は思ってたけど、キミ案外かっこいいね。

 ハロー、俺のTa152。810円+消費税で手に入ったとは思えないほど男前じゃないか。まあ、だいぶ先輩ですから、今のトレンドと違うのはあたりまえ。でも、街でたまたま出会ったオジサンとちょっと仲良くなって、若造の自分が相手の流儀に合わせて話を合わせてみると、ドイツ帰りのかっこいいエピソードが出てくる出てくる。しかもイギリス出身だったんすか、みたいな。いい酒飲めそう。

 こんなに楽しく一緒に遊んでくれるオジサンがいたら、毎日楽しいに決まってるよね。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。