サラサラと絵を描くように塗るプラモは、ホットケーキに似ている。

 ホットケーキの作り方を毎回忘れる。ホットケーキを作るのに何が必要で、どういう手順で焼くとホットケーキになるのかというのを、毎回ホットケーキミックスのパッケージの裏面を読んで確認する。牛乳と卵と、ホットケーキミックスと、そうだバターも要るんだった。フライパンの温度とか、メープルシロップが台所のどこに眠っているのか、とか。

 しかし、いまはどうしてもホットケーキが食いたいのである。言われたとおりに材料を混ぜて、生地をドバっとフライパンに流すと、分厚くてちょっと火の通りが悪そう。中まで焼けてほしいな……とひっくり返さずに待っていたら、プツプツ穴が開いて裏側は焦げ茶色。なんだか不格好になってしまったなと思いながら皿にそれを移し、こんどは失敗するまいと、生地を細い糸のように垂らして二枚目を焼き始める。

 ツーっと垂らした生地がフライパンの表面に触れる端から焼けていき、マグマが冷え固まったような紋様ができてしまう。生地の粘度と流す量を調整して、火を少し弱め、3枚目はだいたいうまくいく。皿に3枚重なったホットケーキはまちまちの完成度だが、インスタントコーヒーを入れてたっぷりのシロップとともに頬張れば「ああ、オレが焼いたホットケーキだな」という謎の達成感と、ホットケーキが食べたかったという気持ちが満たされたことによって、焼いている間のあれやこれやは甘美な思い出にすり替わっていくのだ。

 ホテルのレストランで働く「ホットケーキの達人」は、おそらく完璧な調合の比率を身体に覚え込ませている。オーダーされた枚数によって粉の量が変わっても、正しい牛乳の量や卵の数がパッとわかるんだろう。濡れ布巾でフライパンの底をシュッと冷ますタイミングとか、ふっくらと仕上げるための秘密の材料も知っているに違いない。

 プラモ塗装の達人も同じ。どんな色をどれくらい薄めて、どんな筆でどれくらいの力を込めれば美しいプラモができあがるか、数限りないトライアンドエラーのなかで身体が覚えている。しかし、残念ながらオレはプラモ塗装の達人ではない。缶スプレーをツルッと吹いたり、エアブラシでこまやかに霧状の塗料を乗せていくのは道具のチカラを借りているわけで、こと筆で塗るとなると、毎度毎度新鮮な気持ちになる。

 ホットケーキミックスの箱の裏が言うとおりにするのと同じように、説明書に書いてある塗料をそのまま買ってきて、なんとなくの感覚で薄めてみる。塗装図を見ながら1色ずつ塗料を筆で塗っていく。極上のタッチに小躍りする瞬間もあれば、筆に含ませた塗料がみるみる乾いてボコッとした跡に愕然とする瞬間もある。しかし、小さな失敗と成功をプラモの表面に重ねていくうちに「あら、かっこいいじゃない」と思える瞬間は必ずやってくる。

 プラモを塗るのに「達人」の所作は絶対に必要なものではない。そりゃあ、いつでも完璧な調合で、いつでも抜群のタッチが繰り出せればかっこいいけれど。

 だから、もし「色を塗るのは大変そうだ」「失敗したらどうしてくれるんだ」と思って、プラモの塗装を自分から遠ざけている人がいたら、ぜひとも思い出してほしい。紙や粘土の彫刻に絵の具を塗って、一喜一憂しながら仕上げていく冒険と、その先にある「なんだかんだで、できた」という無責任な達成感。自分で作って自分で食べたホットケーキが必ず甘い思い出になってくれるように、自分で塗ったプラモデルを自分で眺める限り、それは世界でいちばんカッコいい作品になるのだ。

<a href="/author/kalapattar/">からぱた</a>
からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。