アオシマのイカ釣り漁船プラモ「第二十七漁栄丸」で船体の形状に込められたメッセージを味わう

 模型屋さんの棚で見かけた瞬間、まさに集魚灯に群がるイカのごとく吸い寄せられ、アオシマの「イカ釣り漁船第二十七漁栄丸(1/64)」をゲットしました。

 船のプラモデルといえば軍艦!ですが、日本の食と経済を支えるべく海の上で魚と死闘を繰り広げている漁船もプラモデルになっております。

 アオシマからは実在の青森県大間のマグロ一本釣り漁船を丹念に取材しモデル化した「第三十一漁福丸」もラインナップされており、今回ご紹介するキットはその金型を流用しイカ釣り漁具を追加したバリエーションキットとなっております。

 開封してみると、総パーツ点数409点らしくランナーとパーツがみちみちに詰まっています。

▲一度開封すると元に戻せなくなるくらいパンパンです。

 このキットはイカ釣り漁船ですが、マグロ漁船と共通ランナーのためマグロ一本釣り漁師のフィギュアとマグロも不使用パーツとして含まれており、お得です。

▲マグロ。今回は使用しませんが、マグロ漁船のキットでの活躍にご期待ください。
▲マグロ一本釣り漁師。2021年現在、1/64スケールの漁師のフィギュアは日本ではアオシマのプラモ以外では確認されておらず、貴重な存在です。

 船体はフルハルモデル(水面下の形状まですべて再現された模型)になっており、喫水線の上下で2パーツに分かれており、ポリキャップでピタッと合体するようになっています。

 実際のこのクラスの漁船はほとんどがFRP(繊維強化プラスチック)製で、木製の型にガラス繊維を貼り樹脂を染み込ませながら船体を作り、型からガバッと外す一体成型になっており、脱型作業は原寸大のプラモデルのようで迫力があります。

 それでは、船体を眺めていきましょう!

 船体を正面から眺めると、船底がアルファベットのV字になっています。

▲V字型の船底によって波を切り裂くように航行でき、平底や丸底に比べ断面積を効率よく小さくすることができます。

 対して、船体中央から船尾にかけては平らに近い形に滑らかに変化していきます。

 船が高速になると揚力が発生し、船首は浮き上がり船尾で波に乗り海面を滑走するような状態になります。そのため、船体を安定させつつどっしりと滑走状態に対応できるよう、船尾は平らになっています。

 速力や海面の状況の変化にスムーズに対応し、かつ安定して航行するためにこのような複雑で変化にとんだ形状になっているのです。この船首から船尾にかけての形状が乗り味や安定性に大きく影響するので、それぞれの造船所の腕の見せ所になっています。

 そして何より気になる大きく突き出たあごのような船首の形ですが、これは船の全長を抑えつつ喫水線より下の容積を増やし、浮力を稼いだり安定性や直進性を向上する狙いがあるものと思われます。一般的に、船は短いよりも長い方が安定性やスピードが増しますが、むやみに長くすると容積(総トン数)が大きくなりすぎてしまうため、限られた総トン数の中での設計の妙が、独特の形状となって表れています。

 似た形に戦艦大和などの球状船首(バルバス・バウ)がありますが、大型船のものはバルバス・バウによってあえて発生させた波と船体によって発生する波を相殺することで抵抗を減らすためのシステムになっています。大型船と小型船で異なる設計思想をプラモデルからもビンビンに感じることができます。

 「この船の形、どんなふうに波を切って走るんだろう…」と想像しながら船体の形状を味わうだけでお腹いっぱいになってしまいましたが、操舵室や各種装備も激アツなので、追ってご紹介します!

 漁船は量産品ではなく造船所と漁師が仕様や設計を詰めながら作り上げる完全オーダーメイドで、漁師が積み上げてきた理論と経験と勘と、全国各地の中小造船所が積み上げてきたノウハウがぶつかり合った結晶です。さらに木造船からFRP(強化プラスチック)船の時代への変革の苦難を乗り越えて存在してきたメカです。

▲イカの名所、佐賀県呼子で見かけた本物の漁船。地域によって漁船の形状も設計思想も全く異なります。

 思えば、プラモデルも木製模型からプラモデルへの変革を乗り越えてきたホビーであり、このキットは木からプラスチックの時代を乗り越えた漁船とプラモデルがコラボレーションした幸せな結晶だと思います。さらに漁船の形状は企業秘密のようなものでなかなか顧みられる機会も少ないため、現代の漁船のアーカイヴとしても楽しめるキットです。

 唯一無二の漁船をとことん楽しめる、アオシマが全力を注いだプラモデル。みなさんも、ぜひ!

C重油
C重油

1991年生まれ。山口県の小さな漁港出身。大きな港に就職し大きな船を見ているうちに船の模型が作りたくなり、フルスクラッチも始めた普通の会社員。