世界で初めて音速を超えた男の背中を追いかけるプラモ/タミヤ 1/72 ベル X-1 マッハバスター

 もたもたしていた。小さいときから模型屋さんで見るたびに「いつでも買える値段だな」なんて思っていたら、この飛行機に乗って世界で初めて音速を超えた男、チャック・イェーガーがこの世の向こう側に飛んでいってしまった。昨年12月7日のことだ。それよりちょっと前に理由もなくスパッと買っておいたタミヤのX-1のパッケージから、「ほら、早く作りなよ」という声が聞こえる。そういや、中身をまじまじと見たことがなかったな。

 このプラモ、パッケージにはこの飛行機が何なのかという解説がただの一文字も書かれていない。ただオレンジのロケット機が紺色の空に浮かんだ写真があるのみ。ボックスサイドには「胴体は成型色パーツと透明パーツをセット。ディスプレイ効果を考えて、選択できます」とキャプションがあり、確かに胴体の中にみっちりと詰め込まれたタンクやら補機類やらエンジンやらが透明パーツの向こうに透けて見える写真が印刷されている。

 風防までグレーのプラスチックで成形されたランナーと、胴体まで透明のプラスチックで成形されたランナー。塗装は1〜3号機の変遷を5種類のマーキングから選ぶように指示されているのもあいまって、全身透明にするかソリッドカラーで塗り込めてしまうか、それとも右(あるいは左)の半身を透明にするか……と悩み始めるとその順列組み合わせにクラクラしてしまう。

▲先端にオモリ代わりのパチンコ玉が入っていて、それがチッ素タンクを再現するパーツとしても機能する。洒脱!

 胴体のほかには臓物と翼のパーツが収められたランナーと、飛行姿勢で飾ることのできるスタンドの2枚。飛んでいる姿か、無事やり遂げて着陸した姿か……順列組み合わせはまだまだ増える。スパッと作りたいけど、こうして選択肢がいっぱい詰まったプラモは作り出すまでああだこうだと悩みがち。でもいまのオレならスッと組んで「やっぱり違った」となればもう一個買って来れる。また作って、またチャック・イェーガーの背中を追いかけられる。

 恐ろしく繊細なエンジンのディテールを見ていると「さすがタミヤ!」と言いたくなるが、このプラモはもともとホビースポットUという模型店が発売していたアイテムをタミヤが自社のラインナップに入れたというなかなか衝撃的な来歴があって、その後も金型が改良されたりパッケージが何度か変わっていたりするのでその歴史はなかなか複雑だ。……みたいなことを知らなくても、このプラモは歴史的な重みを(モチーフそのものも、自分の来歴も)ことさらアピールすることなく今もしれっと模型店に並んでいる。

 定番品であれば何度でもトライできる軽さ、プラスチックという素材そのものの軽さ。しかし、開いてみればこんなにずっしりとした歴史の手触りを感じることができる……というのもまた、プラモデルの妙な魅力だと思う。でも今回は、その「重さ」に物怖じせず、まずはこのカタチを楽しんでみようと思うのだ。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。