ワニは肉食で、力強く俊敏に動くというイメージの動物だ。しかし野生のワニは1~2ヶ月エサにありつけないこともあるらしく、基本的にはじっと動かず省エネ状態で数少ない捕食のチャンスを待っているのだという。
友達に誘われて行った熱川のバナナワニ園に入ると、そこには16種140頭ものワニが飼育されているのだが、これがまあ驚くほど動かない。ほとんどが土やコンクリの上で日向ぼっこをしているか、水の中から目と鼻だけを出してボーッとしているように見える。
その静かさは生きているのか死んでいるのかも判別できないほどで、数十秒目を凝らして眺めていると、ゆっくりとした呼吸に応じてほんの僅かに胴が膨らんだり萎んだりしているのが認められ、「あぁ、よかった」と勝手に安堵してしまう。
土産物屋に置かれたワニのグッズはほとんどが漫画チックにキャラクター化されたものばかりで、ついさっき見てきたワニの姿(それはときにひどく乾燥していて、あるものは頭から尾まで藻に覆われていた)をあとで思い起こすには少しもの足りない。
プラモデルは、ワニのプラモデルはないのか……。と考えを巡らせるが、とっさには出てこない。結局、後日ヨドバシカメラの模型コーナーで「あっ」と小さな声を出しながら出会うことになったのは、タミヤの「小型恐竜セット」であった。
パッケージを開けると、下顎だけが別パーツになったワニの姿がまるまる彫刻されている。裏返せば胴体のほとんどが肉抜き穴(厚みのあるパーツを成形するときは、金型の中で冷え固まったプラスチックが収縮してカタチが変わってしまわないよう、見えないところに空洞を作っておく)になっている。
いまの私の脳には、彫刻のように動かないワニの姿と、その質感がフレッシュなまま記憶されている。このプラモをすぐに作るか、そのままにしておくかはわからない。だけど、「自分がたまたまバナナワニ園に行った」というのをきっかけにこうしてめぐり逢い、ハコの中で勝手に「熱川のワニ」のイメージを投影されている状態は、とてもおもしろいと思うのだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。