何がいいって、なんの変哲もないプラスチックのエサ箱が、そのままそっくり小さくなってプラスチックのパーツになっていることにほかならない。みんなも名前を知っているであろう、あの海洋堂が世に放ったのは「飼育員とライオンセット」というプラスチックモデル。そこに入っているプラスチックのエサ箱に、海洋堂の創業者である宮脇修氏のことばが凝縮されているように思える。
「創るモノは夜空にきらめく星の数ほど無限にある」というやつだ。
丸いランナー。プラスチックのバケツと四角い角型容器。底にはちゃんと水抜き用の栓がちょこんと彫刻されている。この箱の主は巨大なゾウガメである。チョコエッグなんかで海洋堂を知った人達からすると、ゾウガメのフィギュアというのはそこまで目新しいものではないかもしれない。
でも、こんなふうに単色のプラスチックモデルになっているといきなり意味合いが変わってくることに貴方は気づくはずだ。お菓子の箱からボロンと出てくる塗装済みのフィギュアではなく、貴方が組んで貴方が塗らなければ、ゾウガメの姿にならない何か。
プラスチックモデルにつきものの「スケール表記」がある。このプラモは1/35だ。戦車や恐竜、ミリタリーフィギュアでよく見る縮尺。そうわかって見るこの甲羅の巨大なこと。一昨年、熱川のバナナワニ園で見た動物の中でいちばん得体のしれない奴は、ワニでもマナティでもなく、めちゃめちゃデカい亀だった。硬くて大きな動物が、人間より長生きして、じっとしたり猛然と動いたりするさまを思い出す。
組み立てには流し込みタイプの接着剤が好適だ。5パーツの組み合わせでゾウガメができあがる。海洋堂のプロダクトらしい(そしてそれは原型師の確かな手技による)緻密な造形もさることながら、なるほどこれが1/35のカメなのかと認識を新たにする。同じスケールの車にゾウガメを乗せて横に人間を置けば、古代の人が夜空にきらめく星々を繋いで神話を思い描いたように、ストーリーが生まれてくる。プラモデル同士の組み合わせというのは、いつだって思いもよらなかった景色を連れてくる。
ようこそ、プラモの世界へ。戦争と恐竜から切り離された1/35の造形が、とうとう生まれ育とうとしている。オレはそのことが、猛烈に嬉しい。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。