古賀学 個展『Buoyancy』/プラモ少年と水中ニーソ女子の幸せな関係について。

 古賀学という名前をもしあなたが知らなくても、プラモのことが好きならば必ず彼の作品をどこかで見たことがあるはずだ。直近で言えば、『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』のロゴデザインを手掛けたグラフィックデザイナーであるし、アラフォーならば『G20』のエディトリアルデザインや『月刊モデルグラフィックス』で架空のプラモデルの説明書を連載していたことを覚えているかもしれない。

 nippperを愛読するみなさんと同じく、彼もまたプラモを愛し、ガンダム世界の引力に捕われ、そして「模型的な世界の捉え方」を模索し続ける人間のひとり。同時に、少年時代から彼の心を掴んで離さないモチーフが「水の中の女の子」である。

 グラフィックデザイナーとして、エディトリアルデザイナーとして、VJとしての彼と私からぱたも長きにわたってさまざまな仕事をしてきたが、現在の彼のコアとなっているパーソナリティを記述するならば、「水中女子模型作家」というのがもっともしっくり来るだろう。

 スチルカメラやビデオカメラで撮影した水中の女の子(彼女たちはしばしばニーハイソックスを履いているため、「水中ニーソ」というキャッチフレーズが用いられる)の写真や映像を高度な加工によってパッケージングし、その魅力を抽出するのが彼の表現手法である。

 私には古賀学の気持ちが痛いほどよく分かるのだが、彼と話すたび「ぴったり来る言葉がないね」と笑って、そのままうーんと考え込んでしまう。プラモを通して、模型という表現技法を通して自分がどんな気持ちになりたいのかについて、多くの言葉をもってしっかり説明できる人はそんなに多くないだろう。

 あえてざっくりと語るならば、それは対象を客体化しながら(ときに縮小し、デフォルメし、適度に抽象度をコントロールすることによって)自分が十全にそれを知覚したり所有したりできる形態に落とし込み、対象の大きさや質感や色や動きと自分の繋がりとを構築し直すことで感じる喜びを得るという不思議な行動だ。

 会場に並べられた4つのバスタブはおよそ1/5スケールで、そこに脚を折り曲げ、スキューバダイビングの装備を身に着けた女の子が映し出されたモニターが埋め込まれている。当然ながら、このバスタブは(水栓まで含めて)古賀学によるフルスクラッチビルドの模型だ(「Izumi」と題されたこの作品はコレクターによって売約済みであるため、4基が同時に展示された状態を鑑賞できるのはこの個展が最後になるとのこと)。

 額縁に入った水中女子の写真も、まるでキューブに閉じ込められたかのような画像処理が施されている。折り曲げられた空間の手前に浮かぶ女の子は大きさの概念を取り去られ、そこに静止して鑑賞者の所有欲や知覚にすっぽりと収まったかのように感じられる。

 いま流行りのアクリルキーチェーンのように加工され、モビールに仕立てられた女の子は空中でゆらゆらと回転し、揺れ動きながらお互いの偶発的な衝突と光の反射でクルクルと輝きながら壁に柔らかな影を投げかけている。

 「カワイイ」「フェティッシュ」という言葉は、おそらくモチーフそのものに対する賛美の言葉だ。しかし古賀学はそれをあらゆる模型的なアプローチによって縮小し、鑑賞者の知覚の前に固定しようと必死にもがく。

 そこから僕らが受け取れるメッセージはあまりにも大きい。

 飛行機がかっこいい、戦車が強そう、軍艦が大きい。プラモを作ることは、それらの驚異をどのように表現し、共有するかというテーマと直結する。古賀学はモチーフとして「水の中の女の子」を選び、その魅力をどのように加工し、どのような作品に変換すれば魅力が永続的に保存され、所有したくなる質感を得られるかを考えるというクリエイティブに没頭している。

 「アート」という言葉を目にすると、”高尚なもの”、”意識高いもの”と揶揄する人のことがどこかで気になるかもしれない。しかし、プラモ少年がプラモ世界と様々な関わりを持ちながらデザインの仕事を続けてきたその先に、彼の本当に好きなモチーフを(けっしてマスプロダクトにはならないからこそ)模型的に表現しようとして生み出されたこれらの作品は、僕たちにもハッキリと聞こえる声で語りかけてくる。

 君が本当に好きなものはなにか。そして、模型を通してしか表現できない魅力とはなにか。模型でこそ表現できる魅力とはなんなのか。

 会期は今週土曜までとなっている。少しの時間のやりくりで足を運べるならば、間違いなく見るべき個展。展示の規模こそ大きなものではないが、もしもあなたがプラモ好きならば、模型好きならば、(もちろん「水の中の女の子」が好きならば)、そこから多くの気づきと学びが得られるはずだ。

■古賀学「Buoyancy | 浮力」展
2020年8月21日(金)〜9月26日(土)
CLEAR GALLERY TOKYO
https://cleargallerytokyo.com/manabu-koga-2020
〒106-0032 東京都港区六本木7-18-8 岸田ビル2F
12:00〜18:00(日・月・祝は休廊)/入場無料

<em><a href="/author/kalapattar/">からぱた<br></a></em><a rel="noreferrer noopener" href="https://twitter.com/kalapattar" target="_blank">@kalapattar</a>
からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。