■塗料の乾燥は風呂がいいのではないか。
組み立て、塗装、汚しを駆け足でやってきましたが、模型で一番時間がかかるのはどこかというと、じつは乾燥を待っている時間なんですよね。接着剤も塗料も、乾燥しないと次の工程に進めません。生乾きで触ってしまって指紋がついたりしたら進めないどころか逆戻りだもんね。
「乾燥を待つ間、ほかの作業をしていればいいじゃないか」という考え方もあるんですが、日中の仕事ならまだしも模型作ってるときに全作業を洗い出して、香盤表を組んで並列処理することを前提に進めるのはとても難しいことです。ということで、乾燥の話。
モデラーのあいだで有名なのが「山善の食器乾燥機」です。塗装したパーツにホコリが付かず、熱くなりすぎてパーツが溶けることもないというニーズと食器を乾燥させるというスペックがバチピタにハマりすぎて本来の用途ではほとんど買われていないとすら噂されるこのマシン。
私も何度か購入を検討したことがあるんですが、ただでさえ狭い作業スペースにこれを導入しても絶対に物置にしてしまう自信があり、またこれを使わせてもらった際に、剛速でカチカチに乾くというより「普通に待ってるよりは塗料に熱が入って塗膜の強度が上がるよね/ホコリが付かないっていいよね」くらいの実感でした(使ってる人はどれくらいの時間入れているんだろうか)。あと単純に1/32のジェット機が入らん。
で、私が模型の乾燥に使っているのが浴室。浴室って家の中でもっともホコリがなくて、風呂入ってない時間は家賃を溶かしていく空間です。浴室乾燥機能が付いてる物件であれば、塗った端から大きな塗装ベースにパーツを林立させた状態でボーンと置いておくとかなりのスピードで45度〜50度くらいの熱が入り、指触乾燥(指で触れても指紋がべっとり付かない)までの時間が短縮できます。
浴室乾燥、電気代が心配かもしれませんが3時間で100円くらいだということなので、180時間使うまでは山善より安いしなにより風呂入ってない時間の風呂場が機能を帯びるというところにロマンを感じます。これぞバスロマン。
今回は基本塗装(最初に塗ったグレー)で一度浴室乾燥、緑の迷彩は塗ってる端から乾いていくのでそのままウェザリングに突入します(ウェザリングの方法は昨日の記事を参照のこと)。
■秘技、ウェザリングカラー生乾きでクリアーコートの術
ここからがヤバい話(偶発性の獣)なのですが、私がよくやる方法として「ウェザリングカラーが生乾きの状態で上からクリアーコートする」というのがあります。
そもそもGSIクレオスのウェザリングカラーって油絵の具系なので、完全乾燥までものすごく時間がかかります。特にツヤあり〜半ツヤの塗膜への施工だと、塗ってから24時間程度でも全然定着していなくて「マスキングテープ貼って剥がしたら汚れがすっかりキレイになっていた」みたいなこともしばしば。
で、その昔に1/48のファントムIIを作っているとき、「ウェザリングカラーの上にクリアー吹いてクリアーが固まれば上から触れるじゃん」と思い立って缶スプレーのトップコート(その時はツヤ消し)を吹いてみたのです。結果としてウェザリングカラーの粒子の一部がクリアー層の中にモワーっと溶け出して、表面張力とか乾燥速度の勾配とかさまざまなフォースの導きによってなんかすごくいい感じにパネルラインの近くにキューッと引っ張られていく(で、その溜まり加減がなんだか妙にリアル……)という奇跡現象が起きたのです。アンビリバボー……。
※この秘技はなにか予測不可能な反応が起きる可能性もあるので、必ずテストピースとかで本番の組み合わせを試してから実行してください。
今回はデロンデロンのツヤありにしたかったので、2日目の最後にウェザリングカラーが生乾きの状態で上から「水性プレミアムトップコート 光沢」をまるまる1本吹ききり、浴室乾燥にGO。「スプレー1本吹ききる(小さい模型なら「X回全体を覆うつもり」と心に決める)」というのは全体のツヤの不均一をなくすためのおまじないだと思ってください。
■世の中には危険なデカールがあるぞ!
3日目はほとんどデカール貼りの作業になりますね。最後の組み立ては完成したパーツたちを瞬間接着剤やセメダイン模型用ハイグレードでビシバシ貼っていくだけなので(注意は必要ですが、テンションは高い)、デカールを無心で貼る時間のほうが全然長い。
今回製作したキティホークのミラージュ2000Dは超大判デカールが3枚くらい入っていて(なにしろスペシャルマーキング機を何種類も再現できるようになっているのです。値段のなかでもデカールの比重がすごいことになっていそう)、パッと見の発色はとても鮮やか。まずは絶対に見えなくなることが確定しているコクピットのコンソールのデカール(これは失敗したら筆でそれっぽく塗っておけばいいという保険がかかっていることもあり、まずデカールの素質を知るために試すいいポイント)を貼ってみます。まあこれ試したのは1日目なんですけど。
涼しい顔してデカーリングQuickトレイをおすすめする写真を撮影していますが、じつはこのとき顔面蒼白。なんだかわからんが、デカールが異様に薄くて柔らかい……。しかも一箇所が密着するとテコでも動かなくなるという危険なヤツなのです。
nippperでは何度も書いていますが、デカールを貼っている人間は「位置決めするときはテロテロ動いてほしくて、ここだと決めたらビタッとくっついて一生剥がれないでほしい」という、マッチングアプリの条件入力でもまずないくらいの矛盾した要求を心に持っています。
しかし、このキットのように「パーツの上に乗った瞬間ビターっとくっついて一生動かない」というデカールに遭遇するともはやパニックです。いくら筆を水で濡らして撫でても動かないとなると、細長いラインのデカールとか巨大なマークとかは最初から「全集中 位置決めの呼吸」で貼るしかない。強くなれる理由が分からない。助けてくれ。
ここで慌てて「ああ、これがあるじゃん!」となったのがハイキューパーツのデカールフィクサー(だからあのタイミングで記事になったんだね……)。海外製のプラモでたまにある「非常に柔らかくて薄くて定着性も高いんだけどパーツの上でおいそれ動かせない」というデカールを貼るときには必携と言えましょう(あと古い国産キットもノリが死にかけだったりするので、これで増強してあげるとシルバリングが防げるとのことです)。
おかげさまでミラージュの特徴である赤い破線のウォークウェイラインもつるつる滑らせながら位置決めをして、キレイに貼ることができました。あと「ちょっとシワ寄ってるな」とか「ちょっと浮いてるところがあるな」と思ったら、私はよくタミヤのマークフィットをサラッと塗って、これまた上からいじらずに浴室乾燥にぶち込んでいます。数十分もすればケミカルが全部乾燥してデカールもビターっとパーツに馴染んでいますから、慌てず騒がず浴室乾燥を活用しましょう(おうちの人とはちゃんとコミュニケーションを取って許可を得ましょう)。
あとはマッキーのペイントマーカーで垂直尾翼の上や受油プローブ先端のギラリを塗ったり、アンテナをちまちま植えたりして完成です。
こんなでっかい飛行機を3日で作るというのは締切や自分のスケジュールの問題もあるのですが、それ以上に「ひとつの模型に注ぎ込むパワーをコントロールする」という向き合い方でもあります。
どんなスケールでも、どんなジャンルにでも応用できる時短テクニックや便利なツールは存在します。また、「今回のプラモの課題」を決めて完成させることで、自分の苦手なこと、得意なことが浮かび上がってきます。こういう経験値が少しずつ溜まっていくと、サッと完成させるのもじっくり取り組むのも変幻自在にできるようになるはずです。いきなりカンペキを目指して息切れしているあなたにこそ、「3日で作る」を試して「なるほどこんなもんか(じゃあ次はこうしてみよう)」というサイクルを回すきっかけを作ってみてもらいたいと思うのです。
ではまた、明日のnippperで会いましょう。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。