47歳のプラモ、「フジミの1/48ゼロ戦」はこんなにすごかった!

 いつもどおり模型店をそぞろ歩いていると、「零戦」と書かれた黒くて見慣れぬ箱を発見。メーカー的なデザインの統一感みたいなのをあまり感じさせないこのパッケージ、どうやらフジミの製品らしい。値札はなんと900円。箱も薄いし「どこかのメーカーの1/72をリパッケージ(箱デザインを変えて売る手法)かしら」と訝しみながら開封してびっくり。これは1/48スケールじゃないですか!

 箱の幅いっぱいに入った主翼はディテールもシャキシャキで「すわ、新キットか!?」とよく見てみると、凸型にびっしり並んだリベットの彫刻あり。こういうのは比較的古いキットじゃな……。

 クローズアップすると、はっきりとした凹線で入れられたパネルライン、浮き出すように彫刻されたガンパネル、そして整然と並ぶリベットに、布のような雰囲気で彫刻された動翼……。めちゃくちゃワクワクする陰影に満ちていて、今すぐにでもダーッと塗って、スミ入れをしてその立体を味わいたくなります。

 本物の零戦を見たことがある人ならわかると思いますが、実際はこんなに凸凹していないし、こんなに「布〜!!」って感じに仕上げられた部分もありません。これはモケイ的にムードを盛り上げるための演出なんだよな、と捉えるのが大人っちゅうもの。

 エンジンまわりは流石にあっさりめに見えますが、どうせカウリングをかぶせたらプロペラの隙間からチラリとしか見えないところ。それよりなにより、サクサクサクッとカタチになりそうなパーツ数、濃い味のディテールをどれだけのスピードで味わえるか、こっちの胃袋の力を試されているんです。

 ちょっぴりバリもありますから、これはデザインナイフでサーッとカンナがけすれば問題なし。合わせ目を消すとリベットも消えてしまいますから、こういうプラモは合わせ目を処理してはいけない、というのがマイルールです。

 プラモのセンパイに話を聞いてみると、このプラモの初版は1972年。当時できる最大限の努力がここに工業製品として刻まれ、2020年にほとんどそのまま売られているというのは、プラモの面白いところでもあり、恐ろしいところでもあります。そして、「フジミの1/48零戦の完成度を見たタミヤが翌年に同じく1/48零戦をリリースした」というエピソードを聞けば、このプラモの実力が当時いかなる評価を得ていたのかが想像できるというもの。

 素敵だな、と思ったのは脚収納庫のカバー。飛行状態と着地状態がそれぞれ用意されていますから、「飛んでいるところ」を表現したければ、パーツが細かくて工作難度のやや高い着陸脚の製作をすっ飛ばすことができます。

 キャラクター性をブーストしてくれるリベットを残し、くっきりとした彫りの深い顔立ちを味わい、ただ貼って、好きな色に塗り、飛行する零戦の姿をぺろりと喰らう。こういうプラモって、いまではそんなに多くありません。とくに1/48スケールの飛行機となると、まずまずの精密表現が求められる時代ですから、パーツ数は多くなりがち。

 濃い味のデカールもいろんなマーキングが用意されていますし、キャノピーの枠もガッチリと彫刻されていますから、塗って仕上げるのも気楽に、豪快に楽しめます。

 安くてパーツ数は少なく、機体表面の凹凸が豪快に彫刻されながら、知名度もある。古いプラモには、今のプラモとは違った美点というものがあります(そして私はこういうプラモが大好きです)。当然、組みにくいものや不正確であるという誹りを受けて歴史の舞台から姿を消してしまうプラモもあります。

 箱を開けるまで、何と出会うかわからない。プラモの楽しさとは、かくも量子論的で、かくも冒険的で、歴史学的、考古学的な広がりすら持ち合わせています。みなさんも、新しいものが良い、古いものはダメ、と決めつけずに、貪欲にプラモの縦横の広がりを探検してください。とにかくこの零戦、シンプルながら奥深い表現と、価格とボリュームと組やすさのバランスに考えさせられることの多い一品。いちどは見てみたほうがいいですよ。ぜひ。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。