練習巡洋艦「香取」と、はじめてのすべり台。

唐突に仕事と仕事の隙間が空いた。夕食を食べたあと、2時間くらい時間があることに気づいたのだ。最近では珍しいことだった。
そんなときにふと、久々に船のプラモでも作ってみようかと思いついた。手に取ったのはアオシマの香取。とくに理由はない。なんとなく部屋の片隅に積まれていた箱が目に入ったからだ。

私は冒険心に引っ張られるようにランナーごと色を塗る。楽しい。たまにはいいじゃないか。どうせスキマ時間の気分転換だ。適当にやろう。真面目にやると完成が遠のく。

……ランナーごと塗ったのは失敗だった。ガンダムとかだったら問題なかっただろう。だがお船の模型は折れたソーメンのような細い棒を接着しなければならない状況が多発する。狭い接着面積と塗装面の相性は最悪で、組み立ては困難を極めた。あと流し込み接着剤しか家になかった。

だがどうにかこうにか香取は形になった。おぉ、このたくましい姿はどうか。パーツはたくさんなくしたし舷窓パーツはまっぷたつに割れた。最初から小さすぎて接着を諦めたパーツもあるし曲がったまま固定されてしまった部分もある。でも気にしない。遠くから見たら気にならないから。

さあ、あとはこのカッコイイ巡洋艦をオモチャ棚に飾るだけだぞ……って無ぇじゃん! 飾る場所がねえ! 棚はオモチャがいっぱいで飾る場所が無ぇ!!!
私はロボットや女の子やおっさんのフィギュアをたくさん集めている。それらは、縦長である。2本の足で大地を踏みしめて、縦長になって立っている。だが、船は横長だった。それはあまりにも、オモチャ棚に飾るには不向きなフォルムをしていた。

途方に暮れて私は香取を持ったまま部屋をさまよう。う~~んどうしよう。もう箱も捨てちゃったし、しまっておく場所もない。どこか、この香取を安全な場所に置いておかねば次の朝日を見るまでに粉砕されてしまうだろう。どこかにいい場所はないか……。
私は視線を巡らせる。すると壁に貼ってあるホワイトボードが目に入った。
牛乳……。そうだ、明日は牛乳を買いにいかなきゃ……。そんなことをぼんやり考えながら、私はホワイトボードに近づく。

牛乳……を……。

ス……。

パチン……!
香取は、まるで滝を登って龍へと变化する鯉のようにホワイトボードに貼り付いた!

香取が……艦船模型が「縦になって」いるッッッ!!!!

秘密はこれさ。タララ~! ネオジム磁石~!(わさび)

船の底に入れる金属の板の代わりにネオジム磁石を瞬間接着剤でくっつけたのサ……。

磁力を手に入れた香取は本棚にくっつくことも……

冷蔵庫にくっつくこともできる。その展示法の可能性は無限大だ。いま、船が海に浮く時代は終わった。これからは壁面にくっつく船が世界を制する。

ん……? 香取、お前滑り台を見るのははじめてか? ハハハ、それはそうか。いままでずっと海の上にいたもんなあ……。あれは遊具だよ。子供用の遊具さ。

遊んでみるか? ほら、怖がらずに触ってみて……。

パチン、と音を立てて香取はすべり台にくっついた。

マシーナリーとも子
マシーナリーとも子

殺人サイボーグVTuber。池袋晶葉ちゃんを世に広めることと人類を滅亡させることを目標に日々動画投稿やコラム執筆などを手がける。お仕事募集中。