「旅客機プラモ」を作ったら、空港ができてしまった話、の話。

 こんにちは、からぱたです。週末のC重油さんの記事、すごかったですね。まだ見てない人はぜひ読んでください。

 旅客機模型っていうのはすごく難しいジャンルで、「パーツ数や色数が少ない(=ゴテゴテさせたり汚したりしてハッタリを効かせるのが難しい!)上に、本物に似せようとするとツルツルテロテロに作ることが求められる」というプラモなんですよね。
 だからどうしても「単体でビシッと美しく仕上げられた状態が解」というイメージがあったので、私はなんどか旅客機プラモを手にしたことがあっても、完成まで走りきったことがなかったんです。

 しかし、C重油さんの作ったエンブラエルをよく見ると、塗料の上からクリアーでピカピカにコートしたのではなく、半ツヤ仕上げくらいにとどまっています。プラモ単体の仕上がりとしては超絶作例というよりも、「おお、しっかり作ってありますね!」という雰囲気。絶対に誰も真似できない!という仕上がりではないように思います。
 ところが、記事では彼がどんどん周辺のものを作り込んでいくのが楽しめます。ボーディングブリッジや空港のビル、それを眺める女子高生や作業員の姿があることで、景色のリアリティレベルがどんどん上がっていく。プラモそのもののうまい下手、技巧のあるなしだけではなく、モノがリアルに見える理由を追い求めて「景色」を作っていっているのです。

 C重油さんのnoteも見てほしいのですが、貨物船のフルスクラッチビルド(どれも恐ろしく楽しそう!)をしても、彼はスーパーディテールを追って何かひとつのフネを再現しようと先鋭化していくのではなく、港や積荷、ちょっとした車両やフェンスを周りに配置していくことで「フネのある景色」を作っています。モチーフと前景との組み合わせで、騙し絵のごとく目の前の光景を”リアル”に作り変えていく手腕に本質があると私は思うのです。

▲C重油さん撮影。これ、模型なんですよ……。

 旅客機ひとつをめちゃくちゃキレイに作り込んで、机の上にポンと置いたとしましょう。それがうまく作られていたとしても、そこにあるのは「きれいな旅客機の模型」です。それは技巧的にすばらしいものですし、誰もが真似できることではないので、「わあ、すごいなぁ」と思えます。しかし、C重油さんの作品は「旅客機を単品でひたすら上手に作る」のではなく、「旅客機が旅客機らしく見える前景があれば、旅客機プラモそのものがめちゃくちゃツルツルピカピカじゃなくても圧倒的なリアリティを演出できる」という好例だと言えます。

 「プラモで人の目を引きたい!」と思ったとき、そのプラモをひたすらに精密に作り込むのと同じかそれ以上に、人や周辺物や前景を作ったり置いたりするのは効果的です。「ヨシおじさん」だけでなく、たとえば市販の完成品や鉄道模型のための建物、ミニカーなどなど……。こうした効果をC重油さんの記事はものすごい説得力で示してくれています。(たとえばこのnoteもプラモではないんですが、借景を作ることで場所の認知をバグらせることに成功しているので、ジオラマの一種と言っていいと思います。)

 最後にもうひとつ。旅客機のプラモ(に限らず、あらゆるプラモ)には、同スケールの仲間(空港でよく見る構造物や車両、働く人達)を増やしてあげると、プラモの楽しみ方は何倍にもなると思います。上手い、下手、器用、不器用といった評価を自分に下さなくても、あれやこれやを組み合わせて広がる景色にワクワクするのは人間の本能(鉄道模型のレイアウトがそうだよね)!
 精密さや正確さも追い求めるのは楽しいものですが、こうした「演出論としてのプラモ」がもっともっと広まるといいな、と思ったのでした。
 ハセガワさん、まずはボーディングブリッジ出してみませんか(結局それ!?)。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。