
「英国王のスピーチ」という映画に、とても印象深いシーンがある。
それは、クライマックスの力強い演説のシーンではなく、中盤の、プラモデルを巡るアルバート王子と主治医のやりとりだ。
「一度プラモデルを作ってみたかったが・・・父が許さなかった・・・」
つくりかけの複葉機のプラモデルを手にしながら、子供の頃の辛い記憶と向き合うアルバート王子。
映画の中で、プラモデルは庶民の娯楽として登場する。キットは、フロッグ社の1/72ペンギンシリーズであろうか。リビングのテーブルの上に広げられた古新聞と、接着剤や塗料の瓶。気の向くままに筆塗りされたプラモデル。それは、1936年の光景のはずなのに、強く共感を感じた。「ぼくの子供の頃と一緒だ」と。

英国のフリーマーケットにいくと、何十年も前に子供が作ったと思われるビンテージプラモデルのジャンク品が売られている光景をよく目にする。運が良いと、大変希少なメリット社製1/24スケールのジャガーDタイプだって、ほんの数ポンドで手に入れることだってできるだろう。ただし、それらのほとんどは、部品が外れていたり、筆塗りで謎のゼッケンが描かれていたり、接着剤をぶちまけた跡があったりと、初代オーナーの個性が存分に反映されていたりする。
わたしがそんなジャンク品を愛おしく思い、つい何度も買ってしまうのは、半世紀以上前に異国に存在した、いわば「模型仲間」の存在を生々しく感じることができるからだ。それはきっと彼(彼女?) が、テーブルに広げた新聞紙の上で完成させた、自慢の模型だったに違いない。

このメリット社製Dタイプのプラモデルは、実車が現役だった1950年代中頃から60年代に発売されたものらしい。よく観察すると、グリルの横に小さな補助灯がついていて、ヘッドレストカバーにはテールフィンがついていない。これはDタイプの中でもプロトタイプ、シャシーナンバーXKC401だけにある特徴で、故に後年マニアを唸らせるひとつの要素でもある。決して忠実な縮尺ではないが、ミニマムな部品構成で、XKC401の特徴をとらえた素晴らしいキットだ。

偶然、Dタイプのジャンク品をもう一つ手に入れた。それは、ゴッホのような荒々しいタッチで全体を緑色に塗られ、グリルの周りを黄色い塗料で塗られ、ライトの部品が欠品したものだった。わたしはそれをシンナーの海に沈め、僕の物とした。


ボディ形状を改造して、ピカピカに塗装して、サー・ウィリアム・ライオンズの自作フィギュアを載せて、XKC401テスト走行時の姿を再現してみた。

とても楽しい工作だったが、後になって、友達の作った模型を台無しにしてしまったような、少し後ろめたい気持ちになった。これからも大事にするよ。