「プラモの説明書が僕らを突き放す時」/その自転車の目的地。

 延期になっていたツールドフランスの開催日が明らかになった。
 昨年は久しぶりに全ステージを三週間にわたって視聴したのだけど、選手それぞれのガッツあふれるプレーや思惑が交差する中でのレース展開は毎度のことだが面白い。他にも美しいフランスの景色や山岳ステージの本当に大勢の人に囲まれ、ときに手を触れられながら「Allez!Allez!(がんばれ!行け!という応援フレーズ)」と声援を一身に浴びて走る姿など画面越しに興奮が伝播するシーンは枚挙にいとまがない。

 その中で私が好きなシーンは、チームのメンバーの一人が大量の飲み物や食料をチームカーから受け取り先を行くチームメイトに届けに行くシーンだ。数時間単位で自転車に乗る彼らは飲食を行いながらステージを走り切るわけだが、その補給係はアシストと呼ばれる選手が行うことが多い。時折、個人での勝利をミッションとしたエースが行ったりすると、その献身的な姿にそれこそ胸が熱くなる。

 というわけで、タミヤの自転車セットの話。このキットは「自転車と人」という大多数の人間にとって最も身近な乗り物と人間を組み合わせたもので、今回の「ドイツ歩兵 自転車行軍セット」以外にもイギリスのものがあり、いずれも自分が乗ったことがあるせいか、手に取るように自転車の重さや、それを手で支えたり、またがったりする兵士の感覚がわかるのでとても良いキットだと思う。

 自転車は、ほとんど完成していて、ハンドルとペダル、荷台などを付けるだけ。細かな作業ではあるが、入り組んでいるわけではないので比較的楽。左右のペダルの位置関係だけは注意が必要だけれども。

 それよりも、面白がってほしいのは、「あなたが作ったこの人はどこからどこを走るのか、何の為に走るのか」ということである。私はたいてい、「ちょっとその辺まで」をイメージしている。そう、この手のキットはヘルメットや水筒などの荷物が多くついていて、説明書に取り付け指示が書いてあるが、それと同時に「自由に取り付けてください」と書いてある。

 つまり水筒をたくさんつけて前線の仲間に届けに行く自転車兵を作ってもよいし、反対に何もつけずに、ちょっとその辺までひとっ走り行ってくるということにしてもよい。
 ヘルメットや銃などを複数積んで、仲間の忘れ物を届けるみたいな世界観も楽しいし、飯盒と水筒、布袋だけでちょっとしたキャンプ△感を出すのも面白い。

 私はこういった荷物に関してはどのように取り付けるのかいつも悩んで、結局説明書通りにつけることが多い。ただ、自転車の場合は物語の方向付けがとてもしやすいと思っている。プラモにおける「自由に取り付けましょう」は「さっきまではバシバシ指示を出してきた説明書が突然、私たちを見放す瞬間」だ。これを巧みに乗り切り、固有の達成感を得るための第一歩として、「自転車と」人はとても良いキットだと思う。

■タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.240 ドイツ陸軍 歩兵 自転車行軍セット プラモデル 35240

クリスチ
クリスチ

1987年生まれ。デザインやったり広報やったり、店長やったりして、今は普通のサラリーマン。革靴や時計など、細かく手の込んだモノが好き。部屋に模型がなんとなく飾ってある生活を日々楽しんでいます。
Re:11colorsというブログもやっています。