

黒田硫黄という素晴らしい漫画家がいます。21世紀のはじめにアフタヌーンという雑誌で連載されていた「茄子」という茄子をモチーフにした連作を読み、当時の私に衝撃が走りました。『茄子』の中の自転車ロードレースの短編はアニメ化されたので知っている方もいるかと思います。知らないならぜひ何かを読んで。
そんな黒田硫黄の新しい単行本『ころぶところがる』が発売されているといまさら知ったので、2カ月遅れで読んだところ、僕らの模型生活を彩るものであったので紹介します。

『ころぶところがる』は2021年から自転車雑誌サイクルスポーツに連載されていた作品。『茄子』と似た自転車をモチーフとした漫画と黒田硫黄のエッセイとが混ざり合った読み応えのある一冊です。
その中の一遍に黒田硫黄が自転車模型を作るという話が出てきます。
プロターというメーカーの「1/9 バルタリ」(自転車の模型)を製作するというお話。自転車のフレームは金属製、タイヤやサドル、ワイヤーはゴム製、残りのパーツは銀メッキのプラ、という異素材デスマッチのような模型(数十年前のもの)に挑む黒田硫黄。

細かい内容は是非読んでいただくとして、まあ当然のように色々な失敗をします。パーツの劣化もあるのに加え、ただ自転車の実車を小さくしただけ、みたいなパーツ分割をされた往年のキット(ハンドルのグリップに巻くテープは実物を3mmに切ってねとか書いてある)に翻弄される黒田硫黄。それでも修正を繰り返し完成に至るキット。
黒田硫黄がこの『ころぶところがる』という一冊で一貫したテーマとして描いた、ころぶ(失敗する)ことと、ころがる(前に進む)こと。いうまでもなく黒田硫黄は自転車というもののありかたについてそのように言っているわけですが、私は模型趣味についても勝手に同じように感じました。

模型趣味のすばらしさは失敗が許容されていることだと思っています。組立整形塗装。どれも多くの場合やり直しがきくし、パーツだけ買ったっていいし、何なら同じキットをまた買ってもいい。そもそも失敗したって完成した!と僕らがいえばそれで完成になる趣味です。
SNSに模型雑誌に展示会、素晴らしい成功例ばかり見ているとそこに至るまででどれだけころんできたのかをつい忘れがちになってしまいます。しかし、黒田硫黄がこの1話でころんだ数は実に6回!負けじところんでころがっていきましょう。
よし、ではひとつデカールがボロボロになりそうなのでどう作るか悩んでたタミヤのCX500ターボを組んで行きましょう。あぁ、やっぱりデカール割れたー!