
プラモデルを作る理由は、モチーフになっているものがすごく魅力的で、それを手元に置きたいからというのがひとつ。もうひとつ、「よくわかんないけど、このメーカーがわざわざプラモデルにして売ってるんだから、きっとおもろいだろう」というのがあります。サルビノスJRは、自分にとって完全に後者の性質を備えたメーカーです。
最初に作ったのはNASCAR。外から眺めれば派手なカラーリングをまとった箱みたいなクルマなのに、組んでみると中にめちゃくちゃゴツい骨格があり、独特なエンジンと足回りがあり、それらがあるべき場所に全部収まって初めてあのカタチになります。NASCARというレギュレーションが何を要求しているのか、プラモデルを作ることで指先を通してわかってくるのがめちゃくちゃ面白かった。しかし同時に、これがとんでもなく難しい。位置決めを少しでも間違えればボディカウルは閉じないし、とにかく失敗して、次はもう少しうまくやって、また失敗して、3度目にようやく「ギリギリなんとかなったな」と思える完成形にたどり着きました。周回を重ねながら少しずつタイムを削っていくドライバーみたいに、何台か作ればいつかモノにできるんじゃないかと思わせるプラモデルでした。

そんなサルビノスJRが2024年、今度は現代のインディカーを1/20でプラモデルにしました。最初に登場したのはジョセフ・ニューガーデンの2023年インディ500優勝車。その後は同じ金型を使い、マーキングを変えながらバリエーションをどんどん増やしていますが、現代のオープンホイールレーサーを、エンジンもサスペンションも入ったプラモデルとして手に取れるというだけでかなり珍しい存在です。私は以前、PENNZOILの黄色いマーキングにやられて2023年仕様のスコット・マクラフリン車を買ったものの、箱を開けては閉じていました。だってサルビノスJRのNASCAR、めちゃくちゃ難しかったんだもん。

ところが先日「レイホール・レターマン・ラニガンレーシング 佐藤琢磨 2020 インディ500 ウィナー」を見かけて思わず買ってしまったのですから、これはもう作るしかありません。私が大学生だったころ、F1を走っていた佐藤琢磨は激しく光り輝いていました。その琢磨が2017年、日本人として初めてインディ500を制覇し、2020年には二度目の優勝を果たしたわけです。アメリカ最大級の国民的スポーツイベントで日本人が二度も勝ったという歴史的なマシンを自分の手で作れるとなれば、これはさすがに盛り上がってしまうわけです。

箱を開けると、エンジンからトランスミッションのパーツはシルバー、アンダーパネルやコクピット、足回りは黒、そしてカウルは実車のボディカラーを意識した色に分かれています。白いパーツは透け感の少ないしっかりした白で、これなら塗装せず、巨大なデカールの力に完成度を任せても相当カッコよくなりそう。いきなり完璧な一台を目指さなくていい。まずは成形色のまま組んで、サルビノスJRのインディカーがどういうプラモデルなのか探るプラクティスと洒落込もうではありませんか。まあ、なぜか車体前半と後半で白の色味が微ッ妙〜に違うんだけど。なんで?

エンジンはシボレーとホンダの選択式で、佐藤琢磨のマシンならホンダのパーツを使います。ここで気をつけたいのが説明書。インディカーシリーズの各バリエーションで共通のものが使われているので、自分の作っている仕様ではどちらのパーツを選ぶのか、分岐をちゃんと追わなければいけません。そしてマーキングは大判のデカールが3枚。スポンサーのロゴやストライプはもちろん、カーボン部分を再現するデカールも大量に入っています。このカーボンデカールの貼り付け位置はなんと図示されていません。デカールの貼り指示の裏に書かれた大量の文字情報を読みながら「これはここ」「次はこれ」と探していく必要があります。マジかよ。

さらに面白いのが、キットにはドライバーそのものが入っていないのに、ドライバー用のデカールがちゃんと入っていること。なんだこれと思って調べたら、サルビノスJRが別売している3Dプリント製ドライバーフィギュアのためのものでした。箱の中だけですべてを完結させるのではなく、「もっとやりたければここから先もあるぜ」と囁くナイスなマーケティングだと言えましょう。確かにマシンと同じくらい佐藤琢磨も大事だもんなぁ。

そして意を決してニッパーを入れ、楽しそうなところから組み始めると、これがやっぱり難しい。仮組みをして、ピンと穴がお互いに反発するところを調整して、さらにその次のパーツがちゃんと収まるのかをチェックしないと工程が前に進みません。カウルのアウトラインが最後にきれいにつながるよう、内部のパーツの正しい位置を探ります。さらに私が買った個体ではエンジンまわりのパーツにショートした箇所もいくつかあり、ただ説明書の順番どおりに接着すれば勝手に完成する、という感じではありませんでした。

でも、おかしいことにこれがイヤじゃないのがサルビノスJRのすげーところなのです。NASCARを組んだときにも感じた、同社特有の感触。パーツの声を聴き、なだめすかしながら慎重に進めていくと、あるべきところにあるべきパーツが収まり、それまでバラバラだったエンジンやエキゾーストやトランスミッションが塊になり、バルクヘッドへガッチリと接続され、なにやら非常に頑丈なレーシングカーになっていく。最初からすべての設計意図を見抜き、全パーツを一発で正しい場所に収め、山ほどあるデカールを美しく貼って完璧な完成品を手に入れられるかと言われればかなり怪しいのですが、しかしそれがいいのよ〜とめんどくさいことを言いたくなるプラモデルです。

それでもサルビノスJRのプラモデルには、アメリカが誇るレースと、そこを走るクルマへの愛情があります。そして「俺たちはこれをどうしてもプラモデルにして、お前らの手元に届けたいんだ」という意思が込められています。だから一発できれいに作れなくても、また作りたくなる謎の魅力があります。前回しくじった場所を覚えていて、次はもう少し速く、もう少し正確に狙ったラインを走り抜けられる気がする。佐藤琢磨だって、インディアナポリスを最初から完璧に走れたわけじゃないだろうし。

誰にでもお手軽に、必ずきれいな完成品を約束してくれるプラモデルではないかもしれません。でも、何度か走ってこのキットを設計した人の意図を掴んだときには、まだ見たことのない景色まで連れて行ってくれる力強いアイテムです。そう、その魅力に触れたければまずプラクティスから。何はともあれ、ニッパーを握って声に出しましょう。Drivers, start your engines!