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【レビュー】四半世紀ぶりの再販でホバークラフトの超古典プラモデルに向き合う/エアフィックス 1:144 SR.N4

 いつか作ろうと思っている古いプラモデルに「いまだ!」が来るとするなら、再販が決まったときに違いない。目の前にあるプラモデルが二度と手に入らないかもしれないと思うと「キレイに作りたい」とか「失敗したくない」という気持ちが強くなりすぎて腰が重くなるものだけど、ふたたび手に入る可能性があるんだと思うだけでずいぶんと気が楽になる。本来プラモは失敗したっていいものだし、うまくつくれないのも当たり前だ。そもそも眼の前にある箱の中身が「失敗を乗り越えて2度目の挑戦をしたくなるようなプラモデル」なのかどうかは、実際に手を動かしてみないとわからないのである。

▲写真はAIRFIXのメーカー完成見本

 1:144のSRN4は英国エアフィックスが1970年に発売したホバークラフトの模型だ。おそらくずっと私の手元にあったのは2002年に再販されたものだろう。引っ越しを何度も繰り返すうちに箱のなかでパーツは枝からバラバラと外れ、一部はジップロックにまとめてある。デカールはまだ貼れそうな雰囲気、一部のパーツは黄変し始めている。プラモデルは、永遠不滅じゃない。少しずつ、確実に劣化していく。自分の気力や視力も。だから、今回24年ぶりの再販が決定したというのを知って、ついにニッパーを入れることにした。

 プラモデルの設計製造にCADもCAMもなかったころの製品だから、何も考えずにパーツがぴったり合うなんてことを求めてはいけない。だからといってこれがダメなプラモデルなのかというとそうではなくて、1970年にイギリスの模型メーカーが「どうしてもプラモデルにしなきゃならん!」と思った未来的なホバークラフトのカタチに惚れてしまったら、我々はそれを組むしかない。これしかないのなら、これが最良のプラモデルだ。なにより執拗に分割された彫りの深いパーツたちが演じようとしている役割はちゃんと理解できるし、いまは半世紀以上の間に進歩したプラモデル用のツールやマテリアルがごっそりある。

 こんな古いプラモデルをサラッと小綺麗に現代的な仕上がりにしたいと思うが、それにはおそらくものすごいスキルとかなりの時間が必要になる。それをわかっているからずっと手を付けずにいたのだから、多少ぎこちなくてもとりあえずカタチになっていればいいのだ、と腹を括る。仕上がりがガタガタするのは半分私のせいだけど、半分はキットのせいだ、ということにすればいい。速乾タイプの流し込み接着剤をザブザブと使ってとにかく船底をカタチにする。このキットにチャレンジする先達の製作記はWebでいくつも見てきたが、裏側がこんなカタチになっているなんて今日の今日まで知らなかった。

 自動車を留め置くデッキはザラザラの梨地でアクリルマーカーがよく乗る。詳細な塗装図なんて気の利いたものはなくて、説明書に書いてあるざっくりとした指示や動画を見ながら好きなように塗るのがおもしろい。何かを模したもの、再現したものとして突き詰めるのではなく、とりあえずカタチになっていればいい……と決めれば「とりあえず色がついていればいい」という態度に持っていくのも簡単だということに気がつく。少なくともこのホバークラフトについて言えば、実物があって模型がある、という順序ではなく、そもそもこの世にこんなものが存在するということをパッケージのイラストで知ったのだ。だから、眼の前にあるプラモデルが成り行きで仕上がっていくのを見守るというか、見届けるというか、そんな付き合い方があってもいいはずだ、と思う。

 デッキの左舷側にはかわいらしいバーのような小部屋がある。ドーバー海峡を横断する路線では、酒を飲んだり香水を買ったりできる免税店があったようだ……というのを知って、この小部屋に少しの愛着が湧く。イスやテーブルのパーツは容赦なく細かいが、そうした目配せが開発者の興味関心を想像させてくれる。ただ単にホバークラフトの外観を示すのではなく、また「内部を徹底再現したからスゴイでしょう」とドヤ顔をするのでもなく、精妙なドールハウスがそうであるように、そこにいない車両や乗客の立ち居振る舞いすらをもフワッと匂わせてくれるような、洒脱な模型だと感じる。

 屋根はクリアーパーツとなっていて、右舷側半分はコルゲート(波板状の加工)の彫刻が入れられ内側を摺りガラス状に処理、左舷側半分が磨き上げられているため内部が覗ける仕様だ。左舷半分の屋根も塗装して実物と同じように仕上げるとなると左右でディテールがちぐはぐになってしまうが、それは無粋というものだろう。このプラモデルの目的は、当時最新鋭だったイギリスの巨大ホバークラフトをミュージアムモデルや図鑑のイラストのように眺め、驚嘆し、誰かと語り合うためのメディアであったはずなのだから、やはりあるがままに作ることでそれが達成されるべきなのである。

 おしゃれなパッケージと細分化されたパーツを見ると、どうしても現代的な仕上がりをイメージして実際のパーツの精度とのギャップに慄いてしまう。しかし、「イマ風に仕上げること」だけが古いプラモデルを作る作法ではない。このキットが生まれた年のこと、このキットを開発した人が見た景色、このキットを手にした当時の人々が持ち得た工具や塗料を想像しながらキットのあるがままをじっくりと味わう。エアフィックスのヴィンテージクラシックという復刻ラインは、模型の歴史を楽しむための非常にラブリーな取り組みなのだ。

監督:ガイ・ハミルトン, 出演:Sean Connery, 出演:Jill St. John, 出演:Charles Gray
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からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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