

イギリスのAIRFIXという会社はプラモデルと接着剤と塗料と筆をパッケージに封入した製品を「ギフトセット」と名付けているんですよね。とびきりパーツ数が少なくて簡単に作れるものは「スターターセット」と区別してますけど、例えば誰かにギフトとしてプラモデルをあげるとなったとき、相手のスキルレベルを低く見積もって失礼があるといけませんから、「簡単」とか「初心者」とか言わず、単にギフトセットと呼ぶ。この心意気がめっちゃいいなと思ったんです。
で、わたしが先日このキットを買っているときに横にいたプラモデルに詳しいアニキが「これ、10年くらい前に発売したスピットファイアとBAeホークをセットにしたやつでしょ」と言ってたんですが、じつはかなり最近新規に設計されたアイテムなんです。カタチは同じでも、よりサクサク作れるようパーツ分割が考えてある。単品ならお値段安くてスターターセットによし、ふたつまとめてギフトセットによし、というすごいプラモなんだよなぁ。

コクピットなんて椅子がちょこーんとあるだけで、椅子の乗っかる丸い突起は台座に接続するための穴を兼ねています。計器盤とか操縦桿とか、こまかいパーツはいっさいなし。これがすっごく古いプラモデルなら「再現度が低い」なんて悪口を言われそうですが、エアフィックスは「完成したらあんま見えないし、サクッと作るならこまかいところは省略するのもいいよね」という提案をしているんですよね。2020年代に、新規設計で。

パーツを細かくして本物に近づければ近づけるほどリアルでえらい、というプラモデルの評価基準からすれば、「退化している」と捉える向きもあるかもしれません。しかし正確なシルエットと繊細なパネルラインの彫刻がされた外観がビシッと決まっていれば、これはもう立派にスピットファイアのプラモデルとして成立しています。
何より「計器盤や操縦桿までしっかり再現されたプラモデルがほしい」という人はこのキットの想定する顧客ではないわけで、同じエアフィックスのもっとハイグレードなモデルを買ってくればよろしい。え、すごいな。いろんなユーザーのことを想定して、同時代に違うスケールと違うグレードで同じモチーフを製品化しているプラモデルメーカー、バンダイスピリッツとエアフィックスぐらいなのでは!?

BAeホークだって、とにかく昔のプラモデルみたいにパーツ数が少ない。でも新しいキットだからディテールは端正だし、なによりパーツとパーツがぴしっと合います。そう、プラモデルの設計製造技術ってすごく進歩しているから、昔のプラモデルの構成のまま現代的なカッコいい製品を作ることができるはずなんですよね。でも金型を新しく彫れば昔のプラモデルより高くなってしまうし、目の肥えたモデラーからは「もっと精密なものがほしい」と言われてしまうだろうから、なかなかそういうコンセプトのプラモデルは生まれてこない。

ただパーツ数が少ないだけじゃないんですよ。薄く見せたいところはパーツの肉厚をフツウのプラモデルと同じくらいにして、胴体の輪郭となるところはその倍くらいの厚みにして組んだときの剛性感を担保している。すごく簡単なパーツ構成だけど、その設計にはユーザーがとくに意識しないようなところにまで気が回っている。こういうのを見ると、めっちゃ応援したくなります。

パイロットも入ってるし、接着剤で汚したらテンション下がる風防だって胴体に切られた溝にパチっとハメれば固定される。着陸脚を組むのが面倒なら専用の飛行姿勢台座が用意されてるし、着陸脚を出した状態で組むにしても、脚収納庫扉は繊細な接着に頼らなくてもしっかり固定されるように設計されている。飛行機模型の楽しいところはそのままに、普段作らない人がビビっちゃうかもしれないところは選んで避けたり、ちょっとだけ挑戦してみようぜと言えるゲームバランスに調整する。すごいじゃないですか。

デカールだって主要な国籍マークや番号だけが印刷されていて、こまかい注意書きはあえて省略。これくらいならまあ貼ってもいいな……と万人が思える(でも貼ればちゃんとその飛行機に見える最低限の記号は押さえる)この塩梅が良いんです。繰り返すけど、もっと貼りたい人は市販のデカールいくらでもありますからね。このキットの良さは、「腹八分目」という言葉に似ています。

「誰かが偶然組むかもしれないプラモデルの入り口」というのはどんなものだろう、と私はいつも考えています。接着剤を使わせないのも塗装させないのも一理あるでしょう。そんななか、エアフィックスはとびきりのハイエンドで繊細なプラモデルも発売しながらそこへと繋がる道を広く長く舗装しています。どこまで歩いていくのかはユーザー次第でしょうが、その道が途切れなく続いているということは、とっても大事だと思うのです。