
ウェーブのVF-1バルキリーは2010年に登場したキット。当時ハセガワが1/72の決定版として君臨する中、旧来からのレギュラースケールの小さいほう1/100の決定版となるべくして登場した。接着剤不要のスナップフィット仕様でそれだけ聞けばガンプラチックにまとめられた非変形で手軽な存在に思えた。しかしその実態は「上級者向けスナップフィット」といえるかなり強烈な内容だった。
箱を開けて目に飛びこんで来る大きなベース。劇場版の冒頭、宇宙空間での発艦アームをイメージした造形のスタンドがついてくる。これはスーパー/ストライクといった宇宙仕様のキットに限らず、ウェーブの1/100VF-1ファイターに共通で付属する。

他社からもいくつもキットが出ているVF-1。見知ったパーツが扱いやすい大きさのランナーにちょうどよく並ぶ。

キャノピーはハセガワ以降のキットがバブルキャノピー造形にこだわる中、旧来からのオーバーハングのない形状で処理されたモノ。もっちりとしたフォルムがすばらしく、素直な末広がり形状なので内側容積も広く中が良く見えて、バブル形状でないことがなんらウィークポイントに感じられない。

組み立て始めれば最初のコックピット工程から面食らってしまう。パイロットが米粒程度しかない大きさの部品で4パーツ。これをスナップフィットで組む。精度は高くちゃんと差し込んでゆるみもないんだけど、勘合のための穴やピンの肉厚を稼ぐ関係からかポーズは少々ぎこちない。

機首は左右割りでコックピットと着陸脚庫を挟む構造。後端に極小のポリキャップが存在して着脱できるようになっている。設定にある機首ブロックが丸ごと脱出ポッドになる機構を再現している……んだけど説明書では特に言及されない。 そんなポリキャップは極小サイズに加えてスライド金型を使用した直行方向に穴の開いた特殊なモノも用意されていて……。

小さなS型頭部の首と耳の武装の2軸可動を1個でまかなうために使ったりする。この小さな頭部はそうまでしてポリキャップを収めた上でさらに、S/A型ともに透明なセンサーを挟み込む。S型は特にここの勘合が浅く挟み込むこと自体が大変だったりする。

可変後退翼の可動は主翼側からの上下に生えた短い軸を胴体上下で挟み込む構造。翼を軸で貫通させても良さそうなのだけれど、どうやら軸の細さに対して折れにくい長さで処理できるようにしてあるようだ。この長さなら塗装などで繰り返し分解しても折れそうな負荷がかかる心配がない。

スーパーパックの部品はブルーグレーの成型色も見やすさもあってひときわカッチリとした印象。小さいスナップフィットのキットにありがちなヒケ等からくる彫刻の露骨な歪みもない。メインノズルの内壁や同心円状の小さいノズルまで角が立ったモールドに仕上がっている。 背中のメインブースターの固定は折りたたんだ尾翼ブロック側面からがっちりと四角いボスがかみ合うようになっていてしっかりと角度が決まる。


そしてこのキットの鬼門といえるのがスネ周りの組み立て。スナップフィットでまともに保持されるのはスネの左右メインブロックで、その間に保持力がほぼない状態で車輪庫や足先のベクタードノズルを挟み込まなくてはならない。独特の趣向を凝らした分割なのだけれど組みにくさが前に出てしまっている。

手慣れたモデラーが塗装をして見本や雑誌作例のように手を入れて仕上げてやろうとするときに分割しておきたいとか別パーツにしておいて塗装後に接着したいといった箇所がことごとく「そうなっている」のが本キットの美点。組みやすさ/間違いにくさ/手間の低減といった「ビギナー向けの気遣い」とは違った哲学で貫かれている。多くの部品がアンダーゲートで切り口の目立たない仕上がりと引き換えに、ランナーから切り取って組める状態にするには二回以上ニッパーで刃を入れる手間がかかることになる。


切り取りの手間に加えて、その小ささ故にピンセットでつまみながら力を加えて嵌めこむ必要のある個所もあり、弾いてどこかに飛ばしてしまわないか結構な注意力を要求してくる。スナップフィットであることと、細かい分割で研ぎ澄ましたこだわりの部分がミスマッチに陥ってしまっているきらいがある。

それでも5連ミサイルの弾頭がすべて別パーツな点や、スナップフィット前提の深い勘合で部品の位置どり自体は確かに決まるし、固定する際ののりしろもしっかりしている。なので「自分で判断して塗装も接着もして仕上げます」という温度感のモデラーならむしろ「手を入れたい箇所があらかじめ手を入れやすい状態なので作りやすかった」なんていうかもしれない。組みごこちがプラスチック製の精密ガレージキット(かなり上澄みの)といった趣がある。

本キットのウリともいえる発艦アーム風スタンドはUの字のパーツで機体下面のガンポッドを避けて「置く」構造。アームと機体が固定されるわけではないので簡単に外れてしまう。棚に飾っておくにも何かしらの工夫が必要だったりする。良くも悪くも「そういうキット」なのだ。

「ガンプラをパチパチ組みたてるような気分で取り組むとヤケドする」程度には難しいけれど、部品に設計ミスがあるわけではなく、組みあがった姿は抜群にイイ。何ができたらLv.いくつ……みたいな話はしたくないのだけれど、このキットを楽しんで仕上げられたらその人はなかなかの手練れだと思う。実にピーキーでいいキット。そんな褒め方があるんだな…まぁそのなんというか「スナップフィットという羊の皮をかぶった狼」みたいなプラモデルなのだ……。