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箱から飛び出すY2KのVIPカー文化を目撃せよ!/アオシマのブラックマフィア・エスティマ インボックスレビュー。

 アオシマから再販された「ブラックマフィア TCR11W エスティマ ’98」の箱を開けて、異様なワクワクを感じた。パッケージイラストとは裏腹に、どノーマルの白いボディ。市販車のプラモデルにエアロやホイールといった追加パーツを同梱してVIPカーにカスタマイズする構成はアオシマの十八番(そもそもエスティマはカスタムカー仕様のプラモデルが連発された象徴的なアイテムだ)。

 はじめまして、アオシマのエスティマ。そして箱の中身ををガサゴソと確かめていると、チェキよりちょっと小さいくらいの、日本研紙製#400の耐水性サンドペーパー、すなわち紙ヤスリが入っている。この世には、紙ヤスリから始まるプラモデルへの恋というものがあるのだということを、知ってほしい。

 模型店で絶対に買える紙ヤスリがわざわざプラモデルに同梱されている──というと驚くかもしれないが、アオシマ製の改造車プラモデルには紙ヤスリがしばしば同梱されている。「クルマを改造するってのはな、ただパーツをポン付けすりゃいいってもんじゃないんだよ」というアオシマからのメッセージだ。
 説明書をめくり、このキットにおける紙ヤスリの用途を調べる。工程11に「図示した部分の厚みを紙ヤスリ等で半分くらい削って下さい。」とある。プラモデルを買ったのなら、これはキミが始めた物語だ。キミの裁量で駆け抜けろ……と言わんばかりのこの指示に、オレは痺れた。

 プラモデルの説明書で「直径◯mmの穴を開けてください」とか、「この出っ張りは不要なので切ってください」とか、「この凹みは不要なので埋めてください」という指示は見たことがあるが、「半分くらいに削って下さい」というファジーな感じは、プラモデルの組み立てを説明しているいうよりも、もはや「改造指南」に近い。なぜその工作が必要になるのか説明書をさらに読み込んでいくと、このプラモデルにはスプリングとビスを利用した「車高調整ギミック」が組み込まれているではないか。

 車高を下げればタイヤがホイールアーチに潜り込むが、プラモデルのパーツのフチは実車のそれよりも相対的に分厚い。タイヤとボディの干渉を避けるならば、ヤスる必要がある……ということだ。プラモデルの心得があれば家に紙ヤスリの1枚や2枚はあるだろうが、そうじゃないユーザーがふとこのキットを手に取り、車高短を楽しみたかったとして、だ。「ヤスリがなければ即死だった」という状況を想像し、VIPカーを仕立てる体験をパッケージングする、創造のプラモデル。この1枚が、キットの持つ性質を、これから始まるビルドの時間の苦楽を、そしてカスタムというカルチャーを暗に教えてくれるのだ。

 ちなみに「種車」であるエスティマそのものも出色の出来で、独特のレイアウトを見せるシャシ裏の彫刻などは見ているだけでもよだれが出そうな立体感。先述した車高調ギミックやミニバン特有のキャビンも含め、レーシーさやスパルタンさを味わうカーモデルとは全く異なる佇まいがとても新鮮に映る。そして嬉しいのは、窓の塗り分けに使用するマスキングシートや高品位なデカールなど、「普通のプラモデルとしての親切さ」もしっかりと備えていることだ。

 さて、驚くのは紙ヤスリの用途だけではない。窓や灯火類のランナーを見ると、全く同じパーツにもかかわらず透明のものと、いかにもVIPカーらしいスモークがかかったものが2セット用意されている。そして説明書には透明のパーツがまるごと不使用パーツだと書いてある。ドアバイザーのランナーに至ってはスモークのかかった1枚しかないのに、これも不使用パーツという表記。VIPすぎるぜ……。
 クリアーかスモークか、あなたはどっちを使うか、あるいは透明を好きな色に染めるのか、ドアバイザーはお好みでどうぞ。そんな構成から、手練れのカスタムショップと打ち合わせを繰り返しながら、オレだけの一台を作り上げていくプロセス……つまりノーマルとフルカスタムの間にあるグラデーションが見えてくる。

 跳ね上げハス切り4本出しのマフラーカッターに、ビレットグリル。フェイスとサイドに迫力を加えるエアロパーツにドラッグCホイール。D.A.Dというロゴは知っていても、ギャルソンやブラックマフィアといったキーフレーズを知らなかった自分が、このプラモデルを起点にミニバンカスタムのVIPカー文化における往時のトレンドに夢中になっていく。我々は、プラモデルを通して世界を認識してもいいのである。

 アオシマのブラックマフィア TCR11W エスティマ ’98は、おそるべき豪勢な内容と、完成する車両のルックからはちょっと想像がつかないほどの生真面目さを兼ね備えた怪作カーモデルだ。考えてみれば、VIPカーの世界というのはそもそもプラモデル的である。クルマを組み上げ、パーツを奢り、不可逆的な改造も厭わず迫力のスタイルを手に入れる営み。同梱された紙ヤスリを操り、「ドヤッと目立つVIPな結果」の裏に隠された繊細な心遣いと熟練の手技を味わうという愉悦。みなさんも、このキットでぜひ体感してほしい。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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