最新記事やプラモデル情報を毎日お届け!
follow on Xをフォロー!

飛行機の内側に秘められた美しい秘術/エアロベースの「スピリット・オブ・セントルイス」に模型の宇宙を感じた話。

 チャールズ・リンドバーグによって大西洋単独無着陸横断を達成した飛行機、『スピリット・オブ・セントルイス』の金属製模型を組みました。キレイでしょ。

 この模型を作っているのはエアロベースという和歌山のメーカー。タミヤを退社後に同社を創業した岩見慎一氏による「ひとりプロジェクト」であり、エッチングという方法で薄い金属板を加工して作られた組み立てキットで飛行機をはじめとする様々なモチーフを製品化しています。

 そんな岩見氏から「プラモデルにどっぷり浸かったnippper主宰が組んだらどんな感想が飛び出てくるのか、ぜひとも聞いてみたい」というお話とともにいただいたサンプルは、まさに「模型の世界を旅するもうひとつの地図」でした。

 まず飛行機を構成するパーツがこの薄い真鍮の板に美しくレイアウトされていることに心打たれます。注意深く書体が選ばれたパーツ番号、カットすべき位置を示す丸い凹み、会社のロゴや「初めての人が加工の感触を掴むためのお試しパーツ」まで、ビシッとデザインが行き届いています。

 送り手の意志がビシッと行き届いているということは、私がこれから挑む工作は混沌のなかにあるのではなく、きっと理路整然と進むものなんだろうな……という安心感に繋がります(そして事実、この模型を作っていて迷子になる瞬間はありませんでした)。

 プロペラとそのシャフトを受け止めるワッシャは真鍮よりもだいぶ硬い洋白板でできています。驚いたのは、ホワイトメタル製のスピナー(プロペラの中央部にある円錐形の覆い)がプロペラのハブにあらかじめ一体で鋳込まれていること! 「接着剤を使わずにスピナーを固定する方法がほかにない」とか「組み立ての手間を軽減する」……といった理由ももちろんあるのでしょうけれど、これは袋を開けたときに「わ、すごい!」と思わせるエアロベース流のおもてなしだと感じました。

 組み立て説明書はこれでもかというくらい親切丁寧。どこをどう切って何を折り曲げればいいのか、ほぼ間違いようのない詳細な記述がステップバイステップで続きます。このほかにも同梱された印刷物のそれぞれに「模型を継続的に楽しんでほしい!」「作ったあとも格好よく飾ってほしい!」という願いが込められていて、だいぶ温かい気持ちになります。

 世の中のものにはだいたい内側と外側があります。飛行機の場合、骨と皮が軽くて頑丈な機体を生み出しています。プラモデルは(積極的に内部を再現することが目的でない限り)「皮」に相当するパーツを組み立ててカタチを作っていく遊びですが、今回私が組んだのは「骨」のほうを組み立てる模型。特別な工具は必要なく、カッターとピンセットだけで組み上がります。キットが輸送中に曲がってしまわないよう同梱された厚紙は、そのままカッターマットになるというのもSO GOOD。

 薄く細く頼りない構造を折り曲げて組み合わせることで、だんだんと剛性が出てきます。接着剤を使わずにパーツが固定される設計は金属のたわみや曲げに対する特性までじっくりと考え抜かれていて、 「なるほど!」の連続。機体全長はわずかに5cmほどしかないのでヘッドルーペを使って手もとを拡大しながら組み立てることを切にオススメします。

 組み立てのハイライトは主翼のリブを立ち上げていくところ。ピンセットを使って1枚ずつ起こしていくと、平たい金属板がきれいな翼断面を持った立体に変貌していきます(この工程も決して難しいものではなく、ほんとうに軽い力でテンポよく進められるのが気持ちいい!)。

 プラモデルなら上面と下面をパーンと貼り合わせることで「翼のカタチ」が手に入りますが、エアロベースの模型では「翼がなぜそのカタチになるのか」が手に入ります。

 組み上がると「こんなに繊細なものを自分が組み立てたのか」と少し信じられないような、不思議な気持ちになります。真鍮のきらめきはまるでアクセサリーのようだし、中身の詰まったホワイトメタル製の機首やタイヤのおかげで、見た目以上にずしりと重い宝物のような手触り。でもそれは「単に高級そうな見た目を追求した結果」ではないということが、いちど組み立てれば直感的に理解できます。

 なるほど、プラモデルとは確かに違う「模型のあり方」ではありますが、私がいつも組んでいるのが外観模型(形状と色彩を表現するもの)であるのに対し、こちらは構造模型(文字通り、機体を成立させる骨格を表現するもの)として最適な素材と組み立て方法を選択した結果、当然の成り行きとしてこの輝きと繊細さを獲得しているのだ……と。

 高校生の頃、東急ハンズの模型売り場の脇でこぢんまりと輝いていたエアロベースの製品を見たときの複雑な気持ちの正体はおそらく、自分の好きなプラモデルと似た商品なのに決定的に違う大人びた佇まいに対する羨望でした。しかしたくさんのプラモデルを組んでいろいろな味わい方を身に付けたいま、エアロベースの模型は飛行機に対する好奇心と理解を違う側面から導く地図として、より身近で力強い仲間であるように感じられます。

 構造と形態は太陽と月のごとく、それぞれ分かちがたい存在です。プラモデルの世界を歩くみなさんも、ぜひエアロベースの模型を組んでその事実をダイレクトに味わってください。新たな視点が自分に備わることの喜びを、きっと感じられるはずです。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

関連記事