

アオシマが2017年から精力的に展開しているプラモデルシリーズ「ザ☆スナップキット」(通称「楽プラ」)は、少ないパーツ数と接着剤いらずの組み立て、光沢のある素敵なボディカラーとステッカーの組み合わせによって幅広い層にカーモデルの入口を提供してきました。
シリーズ開始当初、私は「ハコに初心者マークが入っていて『簡単』を謳っているから、きっと自分のためのプラモデルではないんだな」と思っていました。また、縮尺が一般的な国産カーモデルの標準である1/24ではなく、1/32とふたまわりほど小さいことも「自分があえて手に取ろうと思わない理由」だと信じ込んでいました。

もし「楽プラ」が1/24ならばタミヤやハセガワのカーモデルと並べてコレクションできるのに、なぜ1/32スケールなのか。「安価に提供する」とか「子供向けにちょっと小さいサイズのほうがいい」とか、いろいろ理由は想像できます。だからこそ「自分はこの商品のお客さんではないんだな」と感じていたのも事実。同時に、(どんなプラモデルなのかを知りたいという気持ちもあって)ちょっと気になる車種をたまに手にとって組み立てては「いやはやなるほど、こうやってサクッとカタチになるカーモデルもいいな」と満足感を味わうこともしばしば。
さらに色違いや車種違いでたくさん並べていくと、そこには「群」としての良さがあることもわかってきました。現在では22車種以上、カラーバリエーションなどを含めれば優に100種類以上の製品がラインナップされていますから、こうなったらもうある種の生態系です。楽プラは「一般的なカーモデルの亜種」ではなくひとつのジャンルとして確固たる地位を築いたと言っていいでしょう。

当然ながら新しい設計のカーモデルはプロポーションも正確で、古いキットでは捉えきれていなかったフォルムも表現されていますから、やがてインターネット上のプロモデラーたちも1/32スケールの楽プラを組んで「経験の浅い人だけじゃなく、それなりに作れる人だって楽しめるぞ!」と発信し始めます。たしかにそうだと思いつつも、「1/32のカーモデルがどこまで出来が良かろうと、その何十倍何百倍と発売されてきた1/24のカーモデルとは並べられない」ということと「自分が特定の車種を欲しがったとしても、そのクルマが楽プラになるかどうかはわからない」ということには変わりありません。

そんなモヤモヤを心の中で熟成させるうち、「楽プラのようにサクッとカタチになるカーモデルが1/24スケールで開発できない理由はないはずだ」という気持ちも大きくなってきました。同時に、「楽プラらしいディテールの省略や組み立ての手軽さを1/24スケールに持ち込めば、古参/本筋系のモデラーにお叱りを受けるかもしれないことをアオシマが危惧しているのではないか」……つまり、楽プラが小さいスケールで展開されているのは「これは1/32スケールだからアナタたちが従来楽しんでいたカーモデルの世界を侵食するものではありませんよ」というアオシマのメッセージなのではないかと邪推もしました。

しかしそれは杞憂でした。アオシマは1/24スケールで旧来の構成(ディテールを追求し、塗装を要求し、接着剤を使って組み立てるタイプ)のカーモデルを開発しながらも、「楽プラ スナップカー」と銘打って「少ないパーツ数と接着剤いらずの組み立て、光沢のある素敵なボディカラーとステッカーの組み合わせ」という楽プラと同じコンセプトのカーモデルを1/24スケールでも展開し始めたのです。

1/32の楽プラと異なるところは、シャーシ裏側が立体的に彫刻されていること、前輪がステアリングするところ、そして細かなマーキングにシールだけでなく水転写デカールも用意していること。それ以外は「ニッパーでパーツを切って所定のところにハメる」という所作だけでピシッとした見た目のカーモデルが完成する……という内容です。正確さ、精密さを追い求める1/24スケールのカーモデルシーンにおいて、こんなふうにステップバックしたイージーなモデルを生み出す勇気はいくら称賛しても足りないほどだと思います。

第一弾となったKPGC10 スカイラインHT 2000GT-Rはいまから55年前のクルマですから、それ以下の年齢の人たちにとっては「生まれる前の自動車」……ということで、このチョイスは時代を超えたハコスカ人気(そしておそらくはアオシマに蓄積されてきたであろう膨大な販売データ!)を反映したものなのでしょう。いざ組み始めてみると、その感触は1/32の楽プラが1.5倍の大きさになったパーツを組み合わせていくという安心感に満ちあふれています。

どっこい、ところどころに大人の指の力でもはめ込むのが難しいほど噛み合わせの固いパーツが散見されます。手慣れたモデラーなら持っている工具を使えば嵌合の穴を削ったりしてパーツがサクッとハマるようにできるのでしょうが、ピンバイスやデザインナイフといったサブツールがなくても完成することを期待していると肩透かしを喰らいます。私も意地になってねじ込もうとした左ポジションランプをひとつ割ってしまいました。

こんな泣き言を書くと「モデラーなのだから創意工夫が大事なのだ」とか、「なんでもかんでもメーカーのお膳立てに頼るものではない」という意見もあるでしょうが、右も左もわからない人にそれを求めることはできないでしょうし、なによりプラモデルという製品のコンセプトは「組み上げた状態」よりも「組んでいる途中」に現れるものです。
もしも楽プラの組みやすさを保証する解決策があるとするなら、ひとつは「サクッと組み立てられる渋さになるまで金型の寸法やメッキの厚みを調整する」というものであり、もうひとつは「パーツ同士の合わせはユルくしておいて、部分的に接着剤を使ってもらう」ということではないかと私は考えました。

「サクッと組み立てられる渋さになるまで金型の寸法やメッキの厚みを調整する」というのは簡単そうに見えて手間と時間のかかるものです。反面、「パーツ同士の合わせはユルくしておいて、部分的に接着剤を使ってもらう」というのは年少者や経験の浅いユーザーにひとつのハードルを越えてもらう必要があります。どちらにもメリットとデメリットがあるため、部位によってベストな解決策は異なるかもしれません。
ここまで考えたうえで、私はやっぱり、「ほんの数パーツでもいいから、部分的に接着剤を必要とするプラモデルになっているのがいいな……」と感じています。なぜなら、同じアオシマの過去製品には素晴らしいカーモデルがたくさんあり、これから発売されるであろう楽プラ以外の新キットからも接着という工程はなくならないと想像しているからです。

スナップフィット(接着剤不要の噛み合わせ)は素晴らしい発明です。反面、組み付けに指の力が必要だったり、小さいパーツがポロリと落ちてしまったりと、その精度を快適な組み味に保つのはとても難しいもの(実際に私はこれまで無数のプラモデルを組んできて、その長所と短所を味わいまくってきたつもりです)。
楽プラのコンセプトは否定しませんが、1/32スケールで育まれてきた新たなモデラーたちを1/24スケールの世界に誘うとき、そこに「接着剤という相棒を加えて新たな冒険に出かけよう!」という演出もアリなんじゃないかと思うわけです。そこに「1/24スケールになったら洗礼として難しいことを強要しようぜイシシ……」という意地悪な気持ちは1mmもありません。むしろ、「接着したほうが楽なこと、いっぱいあるじゃん!」という気付きが新たなモデラーがより深く広い海に漕ぎ出す一歩になるはずだ……と本気で思っています。

1/24の楽プラで作ったハコスカは本当に端正な表情で、パーツ数が何倍もあるようなカーモデルにもまったく劣らない存在感があります。パーツ分割、メッキやシールの質感、タイヤのプロポーションだって文句なしの出来栄えです。カーモデルを作る楽しみがしっかり詰まった新たな試みだからこそ、シリーズを続けながらどんなふうに多くの仲間を増やしていけるのかがとても楽しみです。みなさんもぜひ組んで、よりよい製品が作られるためのポジティブな意見を寄せてください。それでは、また。