みんなで作る模型サイト nippperはあなたの投稿をお待ちしています!
詳しくはコチラ!

プラモデルが紡ぐ親と子の物語/タミヤの「動物セット」を慈しむ。

 タミヤの1/35ミリタリーミニチュアシリーズには、戦車や人間ではなくいろんな動物が入ったアイテムがある。「1/35 動物セット」と銘打たれたこのプラモデルは大小18の動物と6つの鶏卵が入っているのだが、英語表記は”LIVESTOCK”、つまり家畜の模型である。

 パッケージの差し込み部にはそれぞれの役割が書かれている。主役は軍用のシェパード。ラバは荷役用、ウサギは食用なので死骸で造形されていて、豚、鶏、ガチョウたちもまた、人間のために飼育され、卵を産んだり食べられたりするための動物だ。人間中心主義のセット内容だが、組んで並べてハッとするのは、たぶん私に子供が生まれたからだろう。このプラモデルは、親子の物語でもある。

 犬と子犬、豚と子豚、鶏とひよこ。それぞれの成体が堂々たる造形で楽しめる一方、小さく弱き子供の姿もそこに添えられる。プラモデルには複雑なカタチを組み立てる喜びもあるが、動物セットはごくシンプルな分割ですぐにカタチが出来上がり、色を塗る面白さに軸足がある。まして、ひよこや子犬はワンパーツ。切り出すだけでそこにカタチがすでにある。そっと机に置くと、子どもたちは自立すら難しい。コテンと倒れたり、ぺたんと座り込んだりした姿は「家畜」という言葉で呼ぶのが憚られるほど愛おしい。

 豚は雌だ。並んだ乳房は母の持つ力を感じさせる。脚が造形されていない雌鳥は卵を温めているのだろう。第二次世界大戦の戦車や兵士が血なまぐさい男の世界であるのに対し、つかの間の平和やユーモラスな風景を表現するために用意された動物たちのプラモデル。しかし、ここにはそれ以上に生き物の営みや食物連鎖といったより根源的な概念が生々しく刻まれているようにも思える。

 あくまで情景作りの「おかず」として提案された動物セットではあるが、ゆえにこれまで数多くの模型ファンがこのアイテムを使ってたくさんのストーリーを紡いできた。なぜこれをいきなり組んでみようと思ったのかと言うと、タミヤから本作の続編にあたる「1/35 動物セットII」を発売するとアナウンスしたからだ。


 種類の違う3匹の犬はもちろん、鞍の付いていない馬やリアリティのある乳牛、もこもこした毛並みの羊はプラモデルとしてかなり新鮮だが、そこに子どもたちの姿はいない(大型の動物をパーツ化することで金型のスペースに余裕がなくなったこともあるかもしれない)。どっこい、動物セットIIの豚はよく見るとオスであることがわかる。およそ40年の時を経て「動物セット」の子豚たちが父に再会できるのだとしたら、やはり親子の物語は続いているのだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

関連記事