基本的に物語の主役は一人しかいないし、だからこそ特別で人気があるんだ。人気があるから最初にプラモデルが出るし、たくさん売れるから主役のプラモデルは探さなくても買えるくらいにたくさん生産される。物語では唯一無二なのに、プラモデルになると一番たくさん量産されることになるのが主役なのだ。一方で脇役はプラモデルになること自体が珍しい。ロボット物の脇役なら劇中ではむしろ量産されまくってるくらいなのに……。しかも主役ほどには売れ数が見込めないからコストを下げるため、主役よりも仕様を落とした割高な内容になってしまったりもする。
それでも粋狂に現実とフィクションを混ぜ返した態度でファンは語るのだ。「これだけ量産されているベストセラー機(劇中の設定だけど)をプラモデルにしないなんて何もわかっちゃいない!高級機である主役よりも高い値段で出すなんてもってのほか!もっと話の分かるヤツはいないのか?」なんてね。
そんなこんなで、いま日本で一番「話の分かるヤツ」であるグッドスマイルカンパニーが出してくれたのが『機動警察パトレイバー』における脇役「ヘラクレス21 & ボクサー」だ。今回の初版価格が2体セット5000円なのは破格の値段だと思っていて、自分は勝手に特価なのだと勘違いして喜び勇んで買ってしまった。
テレビアニメ展開当時、主役級からはほど遠いこのヘラクレスやボクサーは固定ポーズのガレージキットが各々4000円程度から出回っていた。30年経った今、同じMODEROIDシリーズで主役機であるイングラムの初出価格が1機で3800円。この脇役2体セットが5000円なら一機あたり2500円。30年待ったにしては安すぎない?2体で5000円、30年待ったお値段です。物干し竿よりすごいんだな……。
値段が安く感じるのなら内容面に対してしわ寄せが来ているのかといえばそんなことはなくて、基本的なカラーリングは成型色で再現されているし、窓やライトにはクリヤーパーツが奢られる。ドーム状のカメラアイもシールではなく、メタリックレッドがランナー状態で塗装済み。
レイバーの特徴的な関節も布地の表現がされたうえで可動も申し分ない。何ひとつ「しわ寄せ」は感じられない仕上がりになっている。
全体から見れば小さなディティールにカウントできてしまうボディ表面の突起も造形を省略したりすることなく分割している。透明な窓の奥には運転席も再現され「出来ていてくれたらウレシイ」ポイントをフォローしてくるのがMODEROIDシリーズのエライところ。
不満が見当たらない完成度のおかげで純粋にデザインを楽しむことができる。さらに2体セットになったことで複数が集まることで世界観が強度を高めるようになっているパトレイバーという作品総体としてのデザインワークが引き立つ。個々のデザインが現実の何を引用したといった以上に「こういうのもいますし、こんなのもいます。街を走る車もそんな感じのデザインの幅で成り立っているでしょう?」という空気を想起させる脇役。
レイバーが自動車相当の機械として活躍するようになったとしたら、今街にあふれる車くらいにバリエーション豊かなフォルムを伴っているのではないか?ならば同じ作業用でもこんな違いを持ったデザインがいてくれたら面白いんじゃないか?見たことがないハズの景色をさもありなんと錯覚させてくれる。単に脇役が2体プラモ化した以上の価値があるよ……。
1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。