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タミヤの戦車模型史に残る貴重な示準化石/いまだ現役の「マルダー1A2 ミラン」

 とってもかっこいいプラモデル、「マルダー1A2 ミラン」が再販されました。ごっつい大砲を持たない歩兵戦闘車というカテゴリーですが、シャープなくさび型の車体、コンパクトな砲塔にミッチリとくっついた火器類がとても近未来的。初版の発売は1993年2月とあり、完成見本写真も近代的なNATO迷彩を纏っています。

 どっこい車体下面のパーツには電池ボックスの名残があり、スイッチ用の開口部やギアボックスを受けるための出っ張り、そして最初にこのアイテムが「マルダー 西ドイツ歩兵戦闘車」という名前で製品化された年である「1977」の刻印が見て取れます。ということは「動かないディスプレイモデル」としてのマルダーとは別に、かつては「モーターで走る模型」としてのマルダーも製品として存在したということか……と早合点したのですが、調べても調べても「動くマルダーの模型」についての記録は出てきません。ってことはこの電池やモーターの痕跡は機能したことのない”トマソン”なのでしょうか?

 タミヤは1962年発売の「パンサータンク」から1/35の模型シリーズをスタートさせ、1980年代初頭まで継続的に「モーターで動く戦車」を製品化していました。マルダーの最初のエディションが発売された1977年当時はタミヤにおける動く戦車模型の最末期にあたり、1968年にスタートし現在まで続く「1/35ミリタリーミニチュアシリーズ(=動かない戦車模型やフィギュアのシリーズ)」と並走していた時期です。
 本アイテムは製品化の過程で「モーターライズ版も同時に開発する」という企画からディスプレイモデルのみの開発に切り替えられた(あるいはモーターライズ版からディスプレイモデル版に仕様が変更されたのではないか)というのが確からしい推理です。

 ランナーにどーんと鎮座する大きなパーツは車体前方の(動く戦車模型であれば本来ギアボックスがはいっていたであろう)スペースに収まるエンジン。組み上げると適度なパーツ数で立体感のある複雑な造形が現れて僕らをあっと驚かせてくれます。完成後も巨大なハッチを開けて内部のエンジンを眺められるようにしたのは、当時の設計マンが「動かない戦車模型だからこそ味わえる楽しみ」を込めようとした痕跡と言えましょう。

 45年前に当時最新鋭の歩兵戦闘車としてデビューし、1993年に「1A2 ミラン」として装備品をアップデートされ、この夏再販となった本アイテム。金型はよく整備されていてバリやめくれもほとんどありません。丹精で緻密な彫刻や近未来的なフォルムは実車同様、現代でもじゅうぶん通用する素晴らしい内容です(さらに近代化されたマルダー1A3は100台がドイツからウクライナ軍に供与され、実戦に投入されています)。

 1977年当時のタミヤニュースを読んでみても、最新鋭の歩兵戦闘車を実際に取材し、エンジンや車室内の細部までつぶさに観察できた興奮が綴られています。車体外部に取り付けられるようパーツ化されたバックパックにも、わざわざ固くて丸いものが中からムギュッと主張している様子(今となってはそれがなんだかは分からない!)が彫刻されていて、当時のスタッフが「これは絶対に再現しなきゃいけない気がする!」と意気込んでいる様子が手に取るように伝わってくるじゃありませんか。いいよね。こういう「俺はホントに見たんだよ!」って声がするようなパーツって。

 40年以上前から現在に至るまで万人に訴えかけるような未来的なフォルムを有し、さらに確かな機能を実証しているマルダー1A2。単なる「ちょっと昔のプラモデルの再販」ではなく、当時の興奮とタミヤの戦車模型が辿った歴史の断層がそのままプラスチックに彫刻された模型。戦車模型史の示準化石として非常に重要なアイテムと言えましょう。そんなゴタクを抜きにしても、すごくシャープでかっこいい現用戦闘装甲車としてとっても素敵なパッケージングなので、みなさんもぜひ手に取ってください。いろんなところがパカパカ開いて、とっても楽しいです。そんじゃまた。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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