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タミヤを超えるのはタミヤだけ!?/F-35Aの最新プラモデルは「至高の模型体験の模型化」だっ。

 上の写真は昨年末に世界中の飛行機モデラーをビビらせ散らかしたタミヤの1/48スケールF-35A。世界中の模型メーカーから発売され尽くしている最新鋭戦闘機のプラモデルを、タミヤが作るとどうなるか。「飛行機模型ってコレ以上組みやすく、しかもシャープになるんですか?」という究極的な仕上がりです。言ってみればレストランで出される超本格激ウマなビリヤニみたいなもんです。

 なんでいきなりビリヤニ?そう、コンビニで買えるビリヤニが話題だからです。コンビニで買えるのは「有名レストランの監修したビリヤニ」ですが、レストランで提供される本格的でピーキーな味と、全国の店舗で安定的に展開でき、いろんな層の人が食べるであろうコンビニ向けのビリヤニの味(とか量とかパッケージとか)はチューニングが異なります。そこには「ビリヤニの持つ本格的な辛さと旨さ」を抽出して味付けのレーダーチャートを整え、手を出しやすい価格に抑えるという超高度な判断が下されています。

 そんな過去がありながら、タミヤはもう一度同じモチーフに挑みました。今度は1/48ではなく1/72スケールです。全長326mmあった1/48モデルが全長218mmに縮んだのです。なんだ、小さくなっただけか……と思うかもしれませんが、さにあらず。パーツの大きさ、プラスチックの厚み、表面の彫刻をそのまま2/3の大きさにしたら、とてもじゃないけど組めたもんじゃありません。小さくなっても楽しさはビッグなままでなくちゃならない。そう考えたタミヤは、”かっこよくてシャープだけど、組む楽しみと仕上がりの確実さはそのまま”という設計を成し遂げています。売り場や価格帯に合わせて「味の骨格は変えず、より気軽に食べられる味と量にチューニングされたビリヤニ」に通じるものがあります。

▲こちらはタミヤ1/48のF-35A
▲こちらはタミヤ1/72のF-35A

 こうして見比べるとどちらも同じに見えますが、下のほうがうーんと小さい。開発スタッフの語るところによれば、両者が同じに見えるように繊細なディテールを入れるには、金型加工技術の限界に挑戦する必要があったといいます。メーカーの技術力なんて、ユーザーからしてみれば結果しか見えないものですから正直知らなくてもいいことなんですけど、その結果がサラッととんでもないことになっているというのが分かればOKです(「ビリヤニっておいしいんだな」ということが伝われば、スパイスの配合をユーザーに見せる必要はないもんね)。

▲こちらはタミヤ1/48のF-35A
▲こちらはタミヤ1/72のF-35A

 組んでみると、できる戦闘機は同じでも両者の設計が全然違うことに驚かされます。プラモデルが小さくなったからって、パーツが小さくなりすぎたり、薄くなりすぎたら組めるものも組めません。そこで上下に分割していたものを左右に分割したり、2枚重ね合わせて表現していたところを1枚のパーツで表現したり、バラバラだったものを一体化したりという思いやりの設計が随所に見られます。それでも「小さくなったぶん省略されてるな〜」とか「簡単になったからチープだな〜」という印象はありません。ものごとには大きさに合わせた表現っつうものがあるんですね。

▲こちらはタミヤ1/48のF-35A

 組み立てを失敗しないようにする哲学は1/48も1/72も変わりません。パーツ数が半分以下になっていても、着陸脚を作業中に折ってしまわないように使用するまで格納しておける工程なんて、1/48で感心したのを1/72でもう一度体験できます。

▲こちらはタミヤ1/72のF-35A

 プラモデルはパーツ数が少ないから簡単なわけではないし、小さいから手軽に組めるわけではありません。大きかろうが小さかろうが、パーツ数が多かろうが少なかろうが、安心して組めるか、組んでいるときにワクワクするかどうかは「その大きさやパーツ数に合わせて適切な組み立て体験を提供したい」というアイディアによって決まるはずです。

 そういう意味で、タミヤF-35Aの1/72モデルは「手頃なサイズ」「サイズに合わせたパーツ数」という制約のなかで、1/48モデルで味わえた端正さ、シャープさ、そして組み立てる楽しさをしっかりと受け継ぎ、必要に応じて解体/再構築しています。1/48モデルのサイズや価格にプレッシャーを感じた人でも、1/72ならば気軽に手を出せる。今回発売された1/72モデルはウェポンベイこそ再現されていませんが、その一点を除けば本格的な味を存分に楽しめる「至高の模型体験の模型化」と言えるのかもしれません。そう考えると、コンビニで買えるビリヤニって「本格レストランで食べられるビリヤニの模型」なんですね。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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