僕たちはめんどくさい人間だ。プラモの下に地面をくっつけた、いわゆるジオラマを作ってみたい。他人とはちょっと違う作品になって、たぶん「いいですね〜」なんて誰かがホメてくれることを知っている。やってみたい表現もたくさんある。でも「イチからステップアップしてちょっとずつ表現の幅を広げるのだ」と言われたら、尻込みしてしまう。反対に「簡単お手軽に誰でも同じものができますよ!」と言われたら、そうじゃねえんだよな〜と思ってしまう。
そういう贅沢でビミョーな気持ちに寄り添ったジオラマの教則本が発売された。戦車模型の専門誌、『月刊 アーマーモデリング』のアドバイザーを務める吉岡和哉のテクニックが詰め込まれた『アドバンスド グランドワークス』だ。
ハウトゥ本にもいろいろな種類がある。心得や材料から始まり、概念や理論を説いてそれを読者がなんとかつなぎ合わせるタイプ、簡単なもののバリエーションがたくさん載っていて、ひとつひとつ真似していけばそれっぽいものがなんとかできるタイプ……。どちらも役に立たないわけではないが、やりたいことや本人のスキルに合わせて選ぶ必要があるし、それすら理解できないレベルだと「自分にはセンスがないんだ」と絶望してしまうこともあるだろう(料理の本を想像すればわかりやすいかもしれない)。
この本は『月刊アーマーモデリング』の連載を一冊にまとめたものだが、上記のどちらのタイプとも違うように感じる。具体的に言うと、8つのまったくタイプが異なる小さな情景が掲載されていて、そこに過不足なく「ジオラマを作るためのテクニック」が網羅的に(しかも被ることなく)盛り込まれている。
使っている道具は国内の模型店で買えるものに限られており、「達人しか知らないようなものを使った作例」はひとつとしてない。ただしやっていることは決して簡単ではなく、それぞれに地道な工作が求められる。そのかわり、なぜその工作が必要なのかがしっかりと書かれているから「とりあえず、ガッとやってからバーっとやればいいんですよ」的な達人特有のコーチングとは全く違う。
本書に書かれていることをしっかりと真似していったら、おそらく1日2日で満足いくものはできないだろう。途中で「こうすれば完コピじゃなくてもいい感じになるんじゃない?」と手を抜きたくなることもあるだろう。でも、「こんなに詩的な情景が、こんなにはっきりとした目的と理論の上に成り立ってるのか!」というのが理解できれば、本書は(とてもシンプルな構成なのに)いつまでも参考にし続けられるだけの情報量を持っている。
本書内にもチラッと書かれているのだが、プラモデルを超頑張って作っていることよりも「気の利いた地面」を作ってそこにプラモデルをポンと置くことのほうが、より多くの人に(プラモデルに興味がない人にも!)共感をしてもらえることが多い。机の上にただ戦車を置くのではなく、ぬかるんだ土地や雪原、砂漠といった情景と組み合わせることで、そこにストーリーや世界観が生まれる。
最初に手掛けるのは小さなものでも、簡素なものでもいい。ただ本書はそれらを「お手軽なもの」とせず、すべてのテクニックを応用可能な最小単位に切り分け、うまく振り分けている。ピアノで大作を弾くときも、ただ鍵盤と楽譜が目の前にあってゼロからそれを追いかけるのと、効果的に考えられた練習曲で覚えた運指を組み合わせて上達していくのとではおそらく全く違う体験になるだろう。本書はあなたがどんなスキルレベルにあったとしても、そしてどんな情景を作りたかったとしても、必ず役に立ってくれるはずだ。