見ての通り、箱の横にいきなり「C.A.T 誕生!」みたいなことが書いてある。同じ漢字文化圏だから、なんとなくわかる。しかし、誕生って言われても……。そしてその横のピチピチなボディースーツのレイン・ミカムラみたいな人、誰……?
ひととおりよくわからなくなったところではありますが、この「C.A.T-01 影」は中国のプラモデルメーカー(果たして本邦における「プラモデルメーカー」と同等の組織なのかという議論もありますが、ひとまずそれは傍に置きます)であるXIAOT(シャオティー)が作ったプラモデルです。一応1/60スケールということになっている。箱にそう書いてあるからな。猫型ロボットで忍者とくれば、そう、『キャッ党忍伝てやんでえ』ですね。「モダナイズド・ヤッ太郎・フロム・チャイナ」みたいなプラモが、令和の日本の模型店にいきなり現れるとは。人生何が起こるかわかりませんね。これは作ってみるしかない。作らないと何もわからないので……。
最近の中国製ホビーアイテムにありがちなことではあるんですが、この「C.A.T-01 影」にはなにやら濃厚な設定がある様子。カプセルに収まって空中投下されるプロセスやら、頭に設置されているコクピットやらが、くどくどと説明書に記載されてます。今のところ先行してこのメカが登場するアニメやコミックが存在するわけではないようなので、本当にプラモデルとデザインと設定だけがいきなり生えている。これ、われわれオタクがやりがちな「オリジナルキャラのイラストと設定だけ考える遊び」がプラモデルになったような状態ですね。しかも日本のメーカーが作っているロボットプラモを丁寧に踏襲しないとこういう遊びは成立しないですから、これはロボットプラモのプラモなのかもしれません。楽しそうで何よりですが、しかしその延長で金型を起こしてプラモデルまで作るんだからすごい。バブルか。
……というふうに書くとプラモがオマケみたいですが、ムチャクチャにガチでゴージャスな内容なのでビビります。別に「アニメが大人気!」みたいなネタでもないのに、箱の中に入っているのはランナーが11枚。大ボリュームにも程がある。「こういう設定のこういうロボットのプラモがあったらいいなあ」というキットにこれだけのリソースを突っ込めるっていうんだから、思わず中国四千年の歴史に思いを馳せてしまいますね。
とにかく機体の色分けを全部パーツを分割して表現しているので、組むのは正直けっこう大変。ですが「パーツがはまらない」もしくは「パーツがめちゃくちゃユルい」みたいなこともないので、淡々と言うことを聞いて部品をはめ込み続けているとちゃんと完成します。
そんな工程の中にたまにおもてなしがある。この写真は膝関節なんですが、右にあるカバーパーツのダボを上側の穴に差し込むと「膝が固定されてシャッキリと立つ」、下の穴に差し込むと「より幅広く膝を曲げられる」という構造になっており、どっちか選んで組み立ててねという仕様です。確かに組んだ後は立たせて飾っておく人が大半なので、そのあたりへの配慮としては気が利いております。エラいね。
とにかく「プラモデルの中にプラスチック以外の素材が入っているとなんか豪華な感じがする」という感覚は国籍を問わないようで、このキットには尻尾がビニール皮膜付きのアルミ線、スカーフは布製のものが入っています。スカーフはフチの部分が実際に焦がしてある(ように見える……)という徹底ぶりで、まさに一試合完全燃焼。この採算度外視っぽいこだわりの詰め込まれぶり、まさに「オレ(誰!?)が考えた最高のプラモデル」を組んでる感じがありますね。
で、完成すると結構キュート、そして思うてるのの3倍デカい。デフォルメされてる感じだし、もうちょっと可愛いサイズのものができるのかと思ったんですが、「これなら確かに頭の中に1/60のパイロットが入るわ」という大きさのものができあがります。このボリューム感、そして塗装なしでこの仕上がりと、まさにやりたいことを全部やった感じですね。デザインの方向性も日本人にも飲み込みやすいやつだし、本当に同じ食べ物を食べて育った人が作ったキットっぽい。
完成してみれば、特に映像作品も原作マンガもないのにこれだけやっちゃうというパワーとやる気に感服した次第。「絶対にやりたいことを全部やるぞ」というテンションは眩しいほどです。中国のオタクのパッションをプラモデルを通して感じるというのもなかなか乙。「お前はこれがやりたかったんだな!」というポイントを組み立てを通して感じ取れるのは、なるほどプラモデルならではだなあと思った吉宗でありました。