「まるでエアフィックスじゃん!」(英国/エアフィックス社のプラモデルは赤箱で統一されている)とモデラーが脊髄反射してしまう赤い箱。マクロス40周年プラモデル関連における今年の大本命、PLAMAXのVF-1バルキリー。ここ20年ほど君臨しているハセガワ製とどんな差別化をするんだろう?という問いに箱デザインレベルから答えてきた(!)。
天面を画で覆わずに、下/右二辺の背景を赤地で切り取り文字情報を載せる。ハセガワ製と一発で見分けがつくし、切り取られた背景とは裏腹に赤地を乗り越えて手前にせり出してくるバルキリー本体がより大きく感じられる。同時にメーカー/ブランド/原作タイトル/版元表記/40周年記念/マクロスモデラーズ……といった多数のロゴをしっくり収めるっていう大技をシレっとこなしていて「エアフィックスじゃん(笑)」で済ませるにはもったいない。デザイン畑の人なら「エアフィックスじゃん(笑)」以上に楽しめるハズ。
箱絵そのものに目を向けてみれば、既存のハセガワ製キットの箱画と比べてもキャノピーの中やパイロットがかなりクリアに描写されている。実際にハセガワ製よりもパイロットは大ぶりに調整され、独特の分割のバブルキャノピーは内側の容積が広くコックピットがよく見えるのと相まってこのキットの最大の見せ場。キットのセールスポイントから導き出された構図なんだろうな。
穴が貫通したマルイチモールドや、キャノピーの枠、ノーズ根元の黒ラインが成形色で再現されて組み上げるだけでメリハリが利いた状態になる機首ブロック。「シールとスミイレだけでこの仕上がり!」を謳うメーカーや小売店が用意したサンプル展示をいくつか見たけれど、人形が白いままのサンプルが多い。人形をそのままにすると見せ場であるはずのここだけが「足りていない」印象になってしまうので、お手軽仕上げだと言ってスミイレだけするくらいなら、むしろパイロットを塗って欲しい。色が入ったパイロットが座っているだけでグッと「キャラクターとしての完成度」が上がって感じられるし、このキットの大トロを味わうことができるから。
このキットのもう一つの美点に胴体上面の分割がある。側面の分割が下まで回り込んでいるので、かみ合わせが深い。かみ合わせが深いので接着しなくても十分に固定できてしまう。合わせ目が下側にあるし、機体のディテールに沿っているからわざわざ合わせ目を消す必要もない。つまり特に加工をしなくても主翼や胴体を別々に塗ってから閉じることができるのだ。これなら主翼の生えるスリット周りの塗装もしやすい。
そして発表時から「デカールじゃないのかぁ」と、モデラーの間で物議を醸したシール。結論から言うと「モデラー層はそれほど困らない」んじゃないかと思う。とても薄いシールで思った以上に馴染む。尾翼の大面積の黒も、この程度に貼れる。スジボリも爪楊枝でこすって馴染ませられる。
主翼程度に平らな箇所は難なく貼れる。ただ主翼翼端の翼端灯類はシールがあるのに彫刻は入っていないので、塗装で対処しようとしたときにガイドがゼロになってしまう。ここはこの先のモデルで改良されたらいいな……。
いちばん気になる胸部のラインも十分に馴染む。エアブレーキの深い段差のフチにはナイフで刃をいれたりもしたけど、デカールより難易度低いと思う。
1段段差になる脚の丸い赤と黒帯の馴染み方はこんな具合。ヒザ横のマルイチモールドはシールの透明部が被るので貼った後にナイフで不要部を取り除いている。
辛いのはシールを回り込ませる翼端。どうしても端がめくれてしまう。自分は今回どんなものかとシールで仕上げるつもりだったので無理やり貼ったけれど、こういう箇所はデカールが用意された場合でも自分は塗装で処理するし、塗装になれているモデラーなら同じように対処する人が多いと思うのでそれほど気にならないと思う。
せっかく成形色とシールで色がほぼ入っているのだからという訳でそこからウェザリングカラーを吹いて拭ってといういつもの手順で小一時間でサクッと仕上げた。
シールは上から塗ったウェザリングカラーにも負けず、シンナーでズルリと剥がれることもなかった。「赤黒帯を塗装した場合に対応した」パターンのシールも収録され、それらは比較的平らな位置で面積も小さく貼るのが容易なモノばかりなので、次作るなら貼るのが困難な尾翼の赤黒だけ塗装で済ませるだろう。そんな対処法を見出しつつも、シールへの不満点としてはもう少しコシのある台紙だといいかなと思う……。まだ貼るべきシールの残っている台紙がみるみるうちにカールしてみすぼらしくなってしまうのは正直いただけない。
実質二晩くらいでここまで完成。自分で作るよりも先にネット上の批評を色々読んでしまっていたので「シール……厳しいなぁ……」とシールを貼る前のテンションがダダ落ちだったのだけど、騙されたと思って1枚貼った所から「アレ?行けるんでない?コレ」ってなって、その後の翼端をくるむ実際に無茶だと結論したシールに至っては「うん、無茶だと思ってたし……でも今回はこれでいいや」の境地でそのまま完成させた。イイだろう?
シール仕上げで作りきってみたらここに書いた以外にも良いトコも悪いトコも沢山見つけた……けど、ここでは教えてあげない。野暮が過ぎる。作り切った人は一緒に呑もう。コレを肴にクダを巻こう。あそこが良かった、悪かった、ってね。そうやって、ひとつのプラモで一緒に呑める人が増えたらいいなと思う。「シールが嫌だから」で積まれてしまうには惜しいプラモデルだから。そうでなくとも、みんなの大好きな「VF-1バルキリーのニューキット」なのだから。