暑苦しい日本語ロックが苦手だ。ロックならちょっとスカしててほしいし、どっかで聴いたことあるようなフレーズを直接的に理解できてしまう母語で叫ばれると恥ずかしくなる。しかしa flood of circleというバンドは聴けば聴くほどのめり込んでしまう魅力がある(わりと暑苦しいのに!)。佐々木亮介のブルージーなハスキーボイスも、べらぼうにポジティブなところも、いろいろとオタクなところも、そして周りのメンバーが佐々木亮介とめちゃくちゃ仲良さそうなところも、いい。
>ハセガワ 1/72 アメリカ海軍 SOC-3シーガル 水上機型
彼らが決まってライブのセットリストに入れるのが『シーガル』という曲だ。そういえばこないだ聴いたな……くらいの理由でハセガワのプラモデルを買って、パーツをパチパチ貼っていく。こじんまりとした複葉機で、もとは1969年の製品だが、何度も何度も模型店の棚に並んでいる。ハコを見れば分かるとおり、今回の再販は2機入りだ。ひとつめを予習のつもりで組めば、ふたつめは強くてニューゲーム。だから気負わず、説明書に書いてあるとおりに貼っていくのも気分がいい。
説明書を読むと、ごくごくシンプルな構成だ。1/72のプロペラ機で言うなら、最低限パーツ数と言っていいだろう。「工程 2」でもう飛行機らしいカタチになるのが嬉しい。コクピットはすごく簡素だけど、機体の外観は戦間期の飛行機らしく無骨でちょっともっさりした印象をよく表現している。たしかにこれを真っ青に塗ったり、銀色に塗ったらとってもかっこいいだろう。もちろん、灰色のまま飛行機のカタチを味わったっていいのだけど。
胴体やフロート、主翼の組み立てはほとんど問題ない。古くともカタチはしっかりしている。しかし2枚の翼の間をつなぎとめる支柱や水平尾翼なんかはかなりワイルドだ。どこまでがパーツなのかも判然としないから、支柱のたぐいは少し長めに切り出しておいて貼りながら現物合わせで調整したほうがいい。
胴体にいろいろなものを取り付ける穴もちょっと小さめなので、デザインナイフの先端でグリグリしてパーツから飛び出たピンがしっかりとハマるように調整しなければいけない。こういうのは「合いが悪い」とかじゃなくて、「まあそういうもんですよね」と思いながら半世紀の時の流れを味わってるんだと思い込むのが秘訣だ。
組み上がってみると、手のひらより少し大きなサイズの複葉機(しかも水上機だ!)がそのカタチを見せてくれる。小さすぎてイライラするようなパーツもないし、力強さと華奢な感じの同居したシーガルが明らかにそこにあるのがいい。コテンと横に転ばないよう小さな台座が入っているのもおすすめポイントだ。
このプラモに出会うまで、オレはシーガルという飛行機を知らなかった。しかしこんなにシンプルで美しいプラモデルが店頭にいっぱいあるの、すごく素敵だ。ところどころつまづきそうなところがあったって、ちょっと気をつければ誰もがこの飛行機を手にできる。しかもふたつ入り。チャンスは2回。
そういえばウミカモメの英名は、邦楽ロックの世界でもよく見かける。カッコいいもんね。響きが。緑茶ハイを飲みながら「シーガルいいよね……」って言って、ぐるぐる眺めてみよう。たまには名前だけでプラモを選んだっていいのだ。あなたの好きな言葉も、どこかで飛行機や船の名前になっているかもしれないから。
>ハセガワ 1/72 アメリカ海軍 SOC-3シーガル 水上機型
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。