海上コンテナ大好きマンです。側面のナミナミした板も好きですが、一番セクシーなのはトビラを閉まった状態で固定してくれる4本の棒、ロックロッドだね。ガチャンとハンドルを上げてグルリと引っ張ると中身が御開帳〜ってなもんですが、このハンドルがぜんぶ外向きだったり内外が互い違いだったり、案外個性があるもんです。コイツは外/外タイプだね。
で、問題はこの鉄でできたロックロッドがトビラと一体になっているこのプラモをどうやって塗り分けるんじゃという話。筆で塗るにしてもなんかヨボヨボしたりはみ出したりしたら悲しいし、エアブラシやスプレーで吹くにはマスキング……つまり塗りたくないところを全部テープで覆わなければいけない。ほんとうに?
やるしかないんです。やらなきゃいけないときもあるんですよ。
よく「マスキングのコツはありますか?」という質問を受けるんですが、そんなもんはない。おそらく「楽してこまかいもんを塗り分ける方法はないんですか」という意味だと思うんですが、マスキングしない方法(つまりチートとかハックに分類されるもの)が思いつかなければマスキングするしかない。マスキングはめんどくさい。めんどくさいけどやれば終わる、ということを覚悟するのが唯一のコツだと言えましょう。
まずはマスキングテープをカッターマットの上にベターッと貼って、大量の小さな四角形に切り分けていきます。フリーハンドだとカットラインがヨレてしまうので、金尺を使うのが吉。大きさは一定じゃなくてもいいので、テンポよくスパスパと大量の小さいマスキングテープを作るのです。
こんどはテクノを聴きながら塗りたくないところにマスキングテープの破片を無限に貼っていきます。うわーめんどくさそう、と思うかもしれませんが10枚くらい貼ったところからトランス状態になり、ただ無心でペタペタしていることを何も疑問に思わなくなります。15分と決めたら15分、無言で休憩せずに(休憩すると現実が押し寄せてくるので……)貼りきります。
このとき、ピンセットは考えうる最高に高いやつを使うのが良いです。細かいコントロールはしっかり掴んで狙ったところに持っていくのが肝要。私はフォンタックスのかなりハードコアなものを使っていますが、先端が尖って合いの良いものをお財布の中身と相談しながら選んでください。
これ、いつ終わるんだよ……と思うのですが、終わるもんです。貼れば終わる。貼らなければ終わらない。プラモに限らず、やり始めれば始まるし、いつかどこかでゴールは待っている。このコンテナも「もうそろそろ貼り終わるぞ!」ではなく「あ、貼るところがなくなった!」と、ゴールはあっけなく訪れました。人生そんなもんです。
タミヤのフラットアルミが好きです。ツヤがないシルバーだけど、グレーじゃない。いかにもカサカサの金属。マスキングがうまくできていることを願いながら、祈りを込めてスプレーです。筆塗りはマスキングテープの貼りが甘いところから塗料が侵入しがちなので、エアブラシで遠目からドライに吹くのがコツと言えばコツかも。
マスキングを剥がすのは、プラモを作っていて最高に盛り上がる瞬間のひとつです。ビシッとロックロッドが出現して、オレンジのコンテナにリアリティが宿りました。チョビーっとはみ出たところは後から筆で補修したり、スミ入れをして目立たなくするなんてこともできますね。
もちろんこれはコンテナの塗装だけじゃございません。艦船模型の甲板にあるチマチマしたディテールや飛行機模型のゴミゴミしたエンジン廻りの無塗装部分などなど、「あー、イッパツで楽にマスキングできないかな〜。無理だな〜!」っていうところは思い切って邪念を払い、念仏を唱えながら(あるいはテクノを聴きながら)微分したマスキングテープでちまちま挑みましょう。およそ自分がやったとは思えないような景色がブワッと広がるのは、プラモのおもしろいところなのですから。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。