新たに発売された零戦の写真集で「プラモデルで見つける可能性」にふと目覚めた話。

 日本でいちばん有名な戦闘機総選挙をやったらおそらく零戦になるのでしょう。ポピュラーな存在だからこそ、模型メーカーは各社しのぎを削ってたくさんの「正しい零戦」のプラモデルを発売してきました。そして人気があるからこそ、「もっと正解に近づくための資料や製作法」がたくさんの媒体で発表されてきました。そういう意味では、この『零戦 写真集 いま蘇えるレジェンド』もなんだか気難しいマニアのための資料集のひとつ……と遠ざけてしまう気持ちが私の心のどこかにありました。

 本写真集はじつに168ページにもわたる大著で、現存機のカラー写真と当時のモノクロ写真をふんだんに収録した上で、ひとつひとつの写真に丁寧な解説が添えられています。

 とくに現存機のカラー写真は(機体が完全な形で残されていなかったり、飛行状態をキープするために頻繁に整備されていたりするからこそ)「そんなところまで詳細に!」と思えるような素晴らしい細部写真のオンパレード。当時の工業水準まで伺い知れるような加工の跡までしっかりと刻まれたディテールに複雑な感情を抱くほどです。

 もちろん当時のモノクロ写真は勇ましく空母から飛び立つものあり、国内外に展開した飛行場で捉えられたものありと、いろいろなサブタイプが作られた零戦を多くのアングルで収められています。それぞれどこで、どんな状況で撮影されたものか、どこを見るべきかが説明されているので、零戦のことを知らなくてもビジュアルにその誕生と進化の歴史を追うことができます。

 そんななか、もっとも心に残ったのは米軍や英軍によって鹵獲された零戦たち。いわば捕虜となった機体はその国のルールに則って塗り直され、新たな国籍マークを背負って飛ぶことになります。その目的はもっぱら「零戦の性能はいかなるものか」「これを倒すにはどんな戦術が有効か」という試験なのですが、その過程で米英のパイロットや技術者は「(弱点はもちろんあれど)こんなにも高性能な戦闘機があるのか!」と驚きます。

 日本のものづくりが云々、と言うつもりはありません。そこにあるのは直接的な果し合いではなく、お互いの技術力を認め、弱点を見つけるための言葉なき対話のように思えます。「緑に日の丸」というイメージを持たれがちな零戦にあって、そこに「もし」という要素を持ち込めるのがプラモデルの面白いところ。もちろん資料に沿って実機のリアリティを追求するのも価値あることですが、例えば連邦軍とジオン軍のストーリーを妄想しながらモビルスーツの色を塗るように、零戦にもいろいろな可能性があったかもしれない……と思えたことがこの写真集を通して得られた大きな収穫だったと言えます。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。