Amazonプライム・ビデオで見放題が終わってしまうという情報をキャッチして、いまさら観た。言わずとしれたリドリー・スコットの超有名作『ブラックホーク・ダウン』を。「ブラックホーク(UH-60)が墜落する」というタイトル以上の前知識はいっさいゼロ。羨ましいでしょ。もう観ている人は記憶を消してあの緊迫感しかない映画を手に汗握りながら観たいはず。そして手元には当然、ハセガワのブラックホーク。モデラーは目にしたものがプラモデルになっていれば否応なく手にしてしまう種族なのだ。
パッケージを開けると、いつか手にしたハセガワのブラックホークとはまったく違う意味を備えてヘリコプターの要素がバラバラに繋がれたランナーが出てくる。二度目の出会いのはずなのに、そこに全く違う景色があるんだからプラモデルは楽しい。人生に「いまさら」なんてない。名作映画はいつ観たって驚きと興奮に満ちているし、名作プラモはいつ作ったって同じように驚きと興奮に満ちている。そして、あなたの知識や経験が映画の味わいもプラモの味わいも変えてしまう。手垢のついた100の感想より、あなたのその瞬間の体験のほうがよっぽど「ホンモノ」なのだ。
肝心の『ブラックホーク・ダウン』だが、最初はプラモを作りながら横目で観るつもりだった。しかし、筋書きのない地獄のような戦いにあっという間に引きずり込まれ、ただ呆然とその行末を凝視するしかなかった。現実世界の戦地において、フラグとか伏線回収とか衝撃のドンデン返しなんていっさいないのだ。
ウィー・ガッタ・ブラックホーク・ダウン。戦争って身も蓋もないし、真のヒーローも絶対の正義もない。だからこそ、このプラモデルでパーツになっている兵士たちは無言で僕らにメッセージを送ってくる。ヘリコプターには人間が乗っていて、命がけの戦いをするために飛ぶのだ。「なんだか人がいっぱい入っていて賑やかだな」と思っていたかつての自分はもういなくて、「なんて血なまぐさいプラモなんだろう!」と驚き、呆れる。
ツルンと丸い顔からはどこかおとなしそうな印象を受けるブラックホーク。でもそこに夕暮れの低い太陽のように光を当てると、筋肉質でシャープな戦士の表情が浮き上がってくる。たった1000円で戦争のど真ん中を心に刻みつけてくるプラモと、一生消えないほどの痛烈な視点を与えてくれる映画。まだ見てなかったら/まだ組んでなかったら、「いまさら」と言わずに体験してほしい。まだ見ぬ映画と模型の間にも、まだまだこんな挿話がいくらでもありそうだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。