「そうだ、大相撲を観にいこう。」
それは突然のことだった。どこかで広告でも見たのだろうか。住んでいる名古屋、しかも自宅からすぐの会場で7月場所が行われることを知った。日本の国技のハズが、現役力士の名前や試合のルールすらもまともに知らず、テレビ中継も観たことがないまま大人になってしまった。もしかしたら自分が知らないだけで、実はとても面白いスポーツなのかもしれない。せっかくの機会だし、人に聞くよりも自分の目で確かめようとチケットを取ったのであった。
小雨の降る中、名古屋城すぐ横の体育館まで来ると鮮やかなのぼり旗が並んでおり気分が盛り上がる。気になって現地で調べたところ、旗に書かれた力士の名前は黒星(=負け)にならないよう黒色を使用しない、スポンサーの名前は企業が赤字にならないように赤色を使用しない、といった決まりがあるらしい。
ちゃんこを食べてから自席に向かい、カメラを片手に取り組みを眺める。その見た目からは想像できないスピードで力士と力士、筋肉と筋肉がぶつかり合い、パァン!という音が響き渡る。取り組みはゴロン・ドスンとした決着になるかと想像していたのだが、巨体が宙に浮き客席まで転げ落ちるシーンを何度も目の当たりにした。こんな激戦を期間中は毎日行っているなんて。
最も感動したのは横綱・照ノ富士の土俵入りだった。
スポーツであると同時に、土俵に宿る神への奉納という側面があることを再認識したのだ。立派な綱を腰に締めた横綱が、太刀持ち・露払いを従えて土俵に入ると会場全体の空気がピリッとする感覚があり、「あぁ、この空気を味わいに来たんだな。」と強く感じることができた。
新たな発見しかなかった初の大相撲観戦を終え、帰路の途中でひとつのプラモデルを購入した。以前から気になっていた福崎町妖怪プラモデルシリーズの「鬼」だ。
シリーズ3作目となる当キットは、設計、成型、パッケージング等が全て兵庫県内の中小企業グループによって行われている。
箱を開けるとランナーが2枚だけ。箱の裏に簡単な組立説明図はあるが、説明書やデカールは付属していないスッキリとした内容。それ故に箱からランナーを取り出した際、美しく配置された肉体のパーツに目を奪われた。かつてウルフの愛称で親しまれた角界のスター、横綱・千代の富士の美しい筋肉を彷彿とさせる。
パーツ分割が単純な上に無可動なので30分程度で形になった。ツノとキバが生えている鬼ではあるが、その姿はあの日見た「横綱土俵入り」そのもの。深く落とした腰。筋肉の鎧を身にまとい、真っ直ぐ前方を睨む鋭い眼光。
人生で初めて大相撲というものに触れ、その興奮が冷めないうちにこうしてプラモデルでも大相撲を楽しむことができた。ロボットやクルマだけではなく、力士や妖怪をモチーフにしたニッチなプラモデルが近所の模型屋で気軽に入手できるのも、この福崎町観光協会のように中小企業が力を合わせてプラモデルを生産してくれるおかげである。生産コストと販売価格のバランスで苦慮したりと大手プラモデルメーカーとは違った悩みも多いらしい。
しかし、決して万人受けしないようなプロダクトだったとしても、誰かの大切な初体験にそっと寄り添ってくれる。そんなプラモデルの在り方も美しいと感じたのだ。
>Amazon.co.jp 福崎町観光協会 福崎町妖怪プラモデルNo.3 鬼 ノンスケール プラモデル
ごく稀に真面目にプラモデルを作るらしいが、基本的には酒の力を借りながら夜な夜なミキシングでモンスターを生み出す等の活動に力を入れている。