和室から「父ちゃん」と呼ぶ声がします。ぼくが隣にいないと察して、息子が目を覚ましたのでしょう。時刻は日付けが変わったくらい。ちょっと手が離せないので、こちらへ呼んで隣に座らせます。
「なに作ってたの」
「なんだと思う?」
机のうえの箱に気づいた彼は「ふゆづきだ!」と声を弾ませます。大正解。一緒に勉強した甲斐あって、ひらがなはお手のものです。
「ふゆづきに乗ったんだよね」
「そうだよ。ここをのぼって、お部屋に入ったんだぜ」
組み上がった状態の艦橋基部パーツを見せます。魚雷発射管の近くから乗艦し、チャフランチャーの脇を通って、艦橋へ登るルートを指で示すと、息子は「へー」などと言って見ています。「すごい雨で大変だったね」と声を掛けると「でも楽しかった!」と返ってきます。そりゃあ良かった。
「ふゆづき、もう完成する?」
「まだもうちょっとかかるかな」
「じゃあ早く作って! ぼくが見ててあげるから!」
見ててくれるなら、いいところを見せねばなりませんが、ふゆづきのマストは少し難儀します。パーツが細くて小さくて、なにより作業の先が見えにくくて、これが大変もどかしい。それでも一つずつ切って貼って繋いでいくと、突然「オッこれはマストですね」という風景が現出します。特に訳わからん筆頭だった「コ」の字型のパーツが、マストの「マストらしさ」を際立たせています。
マストを作っていてマストが現れるのは当たり前のような気もしますが、人間は子どもの成長を見て「大きくなったね」などと言うので、だいたい同じことです。当たり前のことを当たり前にやってきた、そのことに対する称賛と、結果に対する祝福が「マストですね」とか「大きくなったね」という言葉なんですね、きっと。
うーん、かっこいい。おい、見てみろよ。などと声をかけますが、既に返事はありません。いつの間にか重たくなった寝顔を見て、また明日(今日)も頑張ろうなどと、月並みなことを思ったのでした。おやすみなさい。