「アバンテJr.」がどれだけすごかったのかを、どうしても話したいんです。

▲2022年5月静岡ホビーショー。レーサーミニ四駆最新作(この時点で)ミニ四駆スーパーアバンテの展示。

 レーサーミニ四駆シリーズの101作目「スーパーアバンテJr.」が発売されました。ミニ四駆も40周年を迎えるくらいの歴史を刻んでいるから、現役のミニ四駆ユーザーでも「アバンテ」の名前に特別さを感じない世代の方が多くなっていても不思議じゃない。今の若いミニ四駆ユーザーにも「昔、いちばん人気だったんでしょう?」ってくらいには「知識として知ってる」程度のイメージで捉えられている気がします。
 自分は1988〜1990年のミニ四駆第1次ブームの世代。この世代にとってアバンテJr.は特別なマシンです。今回は自分自身の回顧を絡めて、ここ10年くらいの雑誌の記事で触れられる「当時、大人気でした」以上の解像度で初代アバンテJr.の「特別さ」を語ってみたい。

▲「アバンテJr.30周年スペシャル」。ミニ四駆の30周年ではなく「アバンテJr.の30周年」というところがタダモノではない。

 アバンテは当時のタミヤ製RCバギーのフラッグシップモデルでした。RCカーは1988年3月に発売され、それに続くように同年12月には当時最初のブームを迎えていたミニ四駆のラインナップに「アバンテJr.」が加わることになります。爆発的な人気の前に、ここから半年以上品薄状態が続きました。小学校に上がって瞬く間にブームに呑まれ、いちばん最初に名前を覚えて、親にせがんで売り場に行っても全く並んでいないのがアバンテだったのです。
 ネイキッドささえ感じる削ぎ落された印象を持ちながらグラマラスに膨らみ、要所で平面を織り交ぜながら全体としては曲線的にまとめられるという唯一無二の造形。小学校に上がる程度の歳に見せられても「分かってしまう」ほどに、独創的でカッコよかったのです。

▲「この世でまだアバンテよりかっこいい言葉は無い」by大悟(『テレビ千鳥』より)

 RCカーのアバンテからして新技術満載のプロトタイプを世界選手権で投入し、実戦テストを経た上で製品化されるという実車さながらの経緯を持つ存在。ミニ四駆としてリリースされたアバンテJr.も同じように新技術満載のタイプ2シャーシを携えての登場となりました。

▲タイプ2シャーシ(左)とタイプ1シャーシ(右)。ツヤからして違う…

 アバンテJr.登場以前のレーサーミニ四駆(コース競技を前提とすることになった最初のミニ四駆シリーズ)はすべてタイプ1シャーシ。今こうして並べてみるだけでもその変化、洗練の差が見て取れると思います。それまでのタイプ1シャーシの標準装備であったスパイクタイヤはスリックタイヤに変更。コース壁に沿うためのローラー、電池が外れるのを防ぐバッテリーホルダーさえもが「標準装備」として実装されました。

▲同じくタイプ2(左)とタイプ1(右)の内部構造。

 使用するギヤの種類から高速化した減速比、肉抜きされて見た目にも軽量なシャーシ、放熱性の高さが窺えるむき出しになった縦置きモーター、メンテナンス性に優れた通電金具etc……。おおよそ考えうるあらゆる性能向上がなされました。これによって、スペックに現れる性能にとどまらず、プラモデルとしての扱いやすさ、組みつけの精度に至るまで雲泥の差が現れています。タイプ1シャーシでは今では考えられないほどにガリガリと音を立てたギヤも、タイプ2シャーシではただ組み上げただけでずっと静かに噛み合い、駆動効率の劇的な向上を感じさせます。

▲スライド成形によるベアリング受け穴の実装。キット標準は金色のハトメとプラベアリングを組み合わせた軸受け。

 極めつけは当時価格¥600の商品に対して採用されたスライド金型によるベアリング受け穴の成形(シャーシ全体は上下方向に移動する金型で成形し、車軸を支えるベアリングの穴を形作るために左右からスライドする特別な金型が入れ込んであるのです)。いまでこそミニ四駆改造の必須装備となっている「ボールベアリング」はこのタイプ2シャーシではじめて装備可能なオプションとなりました。この時点ではボールベアリング自体が事実上「アバンテJr.専用装備」だったのです(!)。
 そんな破格の最強シャーシを用意されたアバンテJr.は実際の性能も、まさにチートでした。タイプ1シャーシが別売りのオプションを追加しなければ手にできない装備の数々をデフォルトで備え、少なくとも同じモーターを積んでいる限りはまるで歯が立たないんじゃないかとさえ思えました。基礎性能が違いすぎたのです。まさに異世界から転生してきたような存在!

▲30周年記念仕様に付属する記念マーキング&メッキブルーボディ。アバンテJr.も三十路を超えました。

 その後同じタイプ2シャーシを採用したマシンは’89年3月発売の「グラスホッパーⅡ Jr.」まで待たされることになります。こちらはごく普通に買えて「最強シャーシの供給」自体は割とスムーズになりました。自分がアバンテのかわりに最初に手にしたミニ四駆もコレだったのを覚えています。同じ時期にまだアバンテJr.はお祭りのくじの景品などでしか見られませんでした。そんな差からも「アバンテJr.が特別」だったのが分かります。「同じシャーシのマシンでも、アバンテじゃないと欲しくなかった」のです。

 アバンテJr.はガンプラにおけるRX-78のような存在で、その後幾度となく派生型や後継を生み出していくことになります。最近のミニ四駆公式Twitterによれば、実際に歴代売り上げNo.1なのだそう。漫画に登場することで得る人気ではなく「アバンテ」の存在それ自体で人気を持っているという点が、その後の人気マシンとなるエンペラーやマグナムと違う意味合いを持っています。RCもミニ四駆もあくまでも「マシンとしての実績」をもとにしたナラティブを持っていて、当時を知る者にとって未だに特別な存在なんじゃよ……(ゴホッゴホッ……)。

 みんなも好きなマシンについて語りましょう。このままだと「当時とても人気があった」程度の記述で、自分の好きなマシンが「ミニ四駆」というどんどん大きくなっていく主語に埋もれていってしまうかもしれないから……。

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HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。