軍用艦の中には民間船を徴用して改装した「特設艦船」というジャンルがあり、プラモ化されている船もあります。民間船を改装した特設艦船がプラモになっているのならば、少し工夫すれば民間船の姿に戻すことも可能ではないか? 仮説を立てて構想5秒、模型店に向かいました。目に留まったのは特設水上機母艦「聖川丸」。
川崎汽船が戦前のアメリカ航路に投入した高速貨物船「神川丸」「君川丸」「國川丸」の姉妹船で、4隻の頭文字を取ると「神聖君国」となるように命名されました。4隻とも徴用されて特設水上機母艦として改装され、それぞれの戦時中の姿がアオシマからプラモが発売されています。
船体や基本的な構造物は貨物船そのままの姿なので、水上機母艦として増設された飛行甲板や機銃を取り除けば貨物船時代の姿が再現できそうです。ウォーターラインシリーズの共通の武装がまとめられたWランナーも同封されていますが、今回は使いません。なお、貨物船時代には荷役用のデリック(クレーンに似た装置)が4基あったようですが、1基は改装時に撤去されたらしく、撤去されたデリックはキットに含まれてないのでプラ材を使って気合で自作しました。
現在でも川崎汽船の船はライトグレーの船体に赤地に白いKマークがトレードマーク。当時をイメージしながら塗装をしました。
完成した貨物船としての聖川丸を眺めていると、パッケージイラストの軍艦色に塗られた特設水上機母艦としての姿が同じ船とは思えないくらい優雅で美しい姿をしています。
軍艦の活躍や戦果の陰にある、徴用船や特設艦船という世界。日本とアメリカを結ぶ国際航路を華々しく航海していた聖川丸は、やがて特設艦船としてアメリカの機雷や潜水艦に怯えながら航海することになります。徴用された4隻の姉妹船のうち、聖川丸のみが戦後まで生き残り、再び貨物船として国際航路に復活し、引退するまで活躍しました。
そんな船の華やかなりし頃の姿をプラモで再現していると、美しい船が美しい姿のままでいられる世界であってほしいな、という思いが指先から湧いてくるようでした。
1991年生まれ。山口県の小さな漁港出身。大きな港に就職し大きな船を見ているうちに船の模型が作りたくなり、フルスクラッチも始めた普通の会社員。