風が吹きこむガレージで清掃を終えたキャブレターを取り付け、その中にガソリンを送り込む為にキックレバーを10回ほど踏み下ろし、吸気口からほんのりガソリンの揮発臭がしたら、キーをONの位置に回しキックレバーを数回踏み込む。マフラーからは「ポ!ポ!ポ!」とピストンで圧縮された混合気の排出音はするが、点火はしない。プラグキャップや各部のコネクターを押し込んだり揺すって接点に気合を入れ、再度踏み込む。
数回踏み込むと混合気の排出音とは違った「カッ!カッ!カッ!」という音が混じる。不完全ながら混合気に点火した音だ。クランクの勢いを付けるためにキックレバーをゆっくりと下ろしながら抵抗を感じる所が来たら、一旦レバーを戻し一気に踏み込む。
「ボッ!バッ!ババッ!バラララララララ!!」と2ストロークのエンジンが始動するとともに、マフラーから猛烈な白煙が吐き出され、ガレージ内が真っ白な煙に包まれ一瞬で何も見えなくなる。
いよいよ修理するところが無くなり、カウルを塗装すればレストア完了という所まで来て「何色で塗ろう?」と悩む。もともと「修理という行為」がしたくて友人から動かない50㏄のスクーターを譲ってもらったので、このマシン自体にはそんなに思い入れがない。かといって純正のカラーでは味気ないし、何より「自分で直した」という感じにならないので面白くない。
何かイメージが湧かないかなと画像検索で色々見ていたら、艶消しのサンドカラーやカーキに塗られたSUV車のカスタムカーがなかなかカッコいい。塗装のできないスクーターの黒樹脂部分との相性も良さそうなので、DIY店でクリエイティブカラーのライトカーキを買って塗る。
表示はマット(ツヤ消し)で、軽い1回吹きだとガサガサな艶消し。ちょっとテカる感じまで厚吹きすると、しっとりとした模型用サーフェイサー(下地塗料)の塗装面みたいな感じになり、無塗装PP樹脂の半艶感とも馴染んで良い感じに。カウルの塗装が乾いたら自作のステッカーを貼りボディに固定し、最後に取得したナンバープレートを取り付けてレストアは完了。
どっこい缶スプレーには塗料がまだ残っており、こういう良い色を見つけると他の物も塗りたくなるもので、この半艶感を活かせるプラモはないかなと、アオシマの「1/24 ハイラックス ピックアップ」をスクーターと同じ配色で作ることにした。
アオシマのピックアップは国内キットにしては珍しく、ラダーフレーム(シャーシ)とボディに分かれていて、スクーターレストアの延長みたいな感じで作れるのが面白い。ワゴンタイプのハイラックスサーフはフレームとボディ下部が一体になっているので、運転席と荷物部分が分かれているピックアップならではのパーツ構成みたいで、同じ車でもボディ形状が変わるとパーツ構成も変えていたというのは結構な驚き。
組み立ては快調。変えたのはフロントグリルに付いている楕円のエンブレムを削って3Dプリンタで出力した文字のエンブレムに変えたくらいで、黒い部分はクレオスの「Mr.フィニッシング サーフェイサー1500 ブラック」をそのまま使い、全体を半艶で仕上げたのでクリア塗装を重ね塗りしたり、ボディを磨かなくて良いのでサクサクっと完成。
プラモが思った以上に早く完成したことでテンションが良い感じに上がりっぱなしで、ちょうど直したばかりのスクーターの試運転も兼ねて、ちょっと離れたビーチに出かけて撮影してみるか……と完成したプラモをプチプチで巻く。それを小さめの段ボール箱に収め、万が一壊れた時用の接着剤やピンセットもスクーターのボックスに入れたら、道路の段差や砂利に気を付けながら揺らさぬように転ばぬように走る。小春日和というにはちょっと暑めの日差しを浴びながら、山を越え橋を渡り、小一時間ほど走って橋で渡れる離島「古宇利島(こうりじま)」に向かう。
島の外れのビーチはまだシーズン前なので人影もほとんどなく、海岸の岩にプラモを置いては「SUVのカッコイイアングルは何処だ?」と探りながら撮影するのは、背景や光の方向が限られてるのでなかなか大変だけど、これが超楽しい。それでも、ちょっと遠出の屋外撮影の場合は「ここかな」と決めたアングルを1枚だけ撮るのではなく、ちょっと寄った写真、引いた写真、露出をちょっと明るくした写真、ちょっと暗くした写真と、条件を変えていくつか撮り、後で「この1枚」と選ぶようにすると悲しくならないはずだ。
寒い冬もそろそろ終わり、プラモを作りやすい季節になる。好きな色を選んでプラモを仕上げ、屋外で撮るのは本当に楽しい。皆さんも、ぜひ!