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謎の戦車を謎のままプラモにしました/タミヤ T−55エニグマを組む

 タミヤといえば戦車模型。戦車模型といえばタミヤ。1/35で展開されるミリタリーミニチュアシリーズはすでに370を超えるアイテムが発売されてきました。すごいな!そしてプラモ大好き少年はタミヤのカタログを貪るように読んだり模型屋さんで箱をン千回と眺めているうちにいつしか全部を知ったような気になってしまうわけですが、よく考えたら組んだことあるもののほうが少ない。これはまずい。
 いくら名作で、いくら語り尽くされていたとしても、自分で組まねばわからんこともある。ということで組む。今日は「謎」という名前の戦車、T-55エニグマです。

 おわんを伏せたような形の砲塔は、みんなが思う「ザ・戦車」という形。なんでこれがザ・戦車なのかというと、戦後すぐから1980年代まで延々この形で作られ、世界に10万両くらいばら撒かれたからです。タミヤのT-55はとにかく最高に出来が良い。プレスされた部材とと鋳造された鉄、薄いところや繊細なパーツの表現力が凄まじく、それが「プラモをあんまり作ったことない人でもギリギリ組み立てられるな!」という分割でうまいことパッケージされているんですよね。「これ、上手い人なら組めるんだろうな……」じゃなくて、「めっちゃ上手な模型が自分の力で完成した!」と思わせるゲームバランス設定。これがタミヤのすげえところだなといつも思います。

 車輪を車体にバコバコはめていくところからスタート。迷うようなところはなくて、ニッパーと接着剤があればスイスイと形が見え始めます。基本になっているのは2002年に設計されたプラモなので、柔らかいラインとピシッとしたエッジが混在するパーツもうっとりするような造形。しかも単色でバリッと塗れば勝手に陰影がついてすんごくかっこいい戦車が完成しますので、これはもうすべての「戦車組んでみようかな」って人にオススメの俺的大レコメンドマスターピースです。

 よくわからんもんがよくわからんままプラモになっている……そんなことがあるかよと思うかもしれません。しかしこの「エニグマ」という戦車の愛称はそのままズバリ、「謎」という意味です。
 湾岸戦争でイラク軍と戦った欧米の陸軍が見たこともないSFチックな形の戦車に遭遇し、これを捕獲してみた。するとT-55にイラク軍が独自に鉄板で作った増加装甲がくっついている。寸法とか内部構造を調べてみると、どうやら工場で大量生産したもんじゃなくて、おおまかに決まったサイズと形状に合わせて手作業でチマチマと作ったもののようだ……。何両あったのか、この増加装甲がどんくらい意味のあるもんだったのか、なんもわからん。その「なんもわからん」がこうして分割されてパーツになっているの、めっちゃ不思議です。

 すっぴんのT-55にカクカクしたアーマーを装着!丸い形状に直線的な形状が合体するのって、なんでこんなに楽しいんでしょう。しかもイラク軍の職人が戦車に合わせて手作りした増加装甲をタミヤが測って設計して工場でビシッとした形で製造して俺たちが組み付けるんですよ。T-55をエニグマに改造する体験(ほんとうは誰がどこでどうやって作ったのかわからない謎なのに!)を、モデラーが追体験できるっちゅうことです。プラモ、おもしろすぎる。

 砲塔だけじゃなくて、車体にもめちゃくちゃデカい箱みたいな増加装甲をくっつけていきます。「うーん、ここに増加装甲付けると牽引用のフックが当たるね〜」「そんじゃうまいこと避けるように四角い穴開けときますか」「そうやな」と現場で戦車を見ながら鉄板に直接チョークで図面を引いているイラク軍の工作部隊が思い浮かびます。本当のところは誰もわからん。謎です。

 何が感動するって、この2つの増加装甲の間に走る隙間よ。髪の毛一本の太さのクリアランスが並行にピシーっと揃っているこの感じ、下手すると本物より繊細っちゅうか、「いま、タミヤのプラモを組んでいるぞオレは!」という興奮があります。これは組めばわかる。ただ指示されたとおりに作業すると、自分の力と錯覚するような精度のものがビシャっとそこに現れる感じ。This is TAMIYAなんすよ。

 ほらほら出来てきたこのカブトガニみたいな無駄にかっこいい砲塔!まるで怪獣映画に出てくるSF戦車のようでしょ……。あまりにもかっこいいからいままで組まずにずっと指くわえて棚に並んでいるのを眺めていただけなんですけど、自分で組むと格別な良さがありますねこれは。増加装甲のエッジに走る溶接の跡も現場感バリバリ。カドのところがガビガビに剥がれてサビがザーッって流れているところを想像するとムズムズしてきます。

 そういえば……とイギリスの戦車博物館に行ったときの写真をほじくり返します。展示車両の控室みたいな倉庫で佃煮のように並ぶ戦車たちを必死こいて拡大すると、あーっ!いた!(当時は気づいてなかった気がする)。このカクカクした装甲、おまえ、エニグマだったのか!たぶんタミヤもこの車両を取材して模型化してるんすね〜。

 アメリカ人が驚き、イギリス人が驚き、そしてタミヤも驚き、こんどは僕らが驚く。謎の戦車が謎のまま模型になり、そして組んだ人もまた、「なんなんだこれは……でもかっこいいからいいか……」となるT-55エニグマ。傑作戦車模型にSF味たっぷりの装甲(でもただの鉄板を溶接した箱なんだけど)が合体して、最高を超えてしまっているプラモなので、次に見かけたら買って組みましょう。部分的にめちゃくちゃ細かいパーツがありますが、そういうのをすっ飛ばしてでも、組むだけで大興奮できるナイスな戦車模型です。そんじゃまた、次の戦車で!

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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