飛行機もいいけど、地に足の付いたものを作りたいなと思う。まあプラモのモチーフになっているものってフネと飛行機以外はだいたい地に足が付いていそうなもんだけど、なかでもいちばん小さくて完結していてそれ自体がヒーローのメカみたいに見えてくるのはタミヤMMのバイクなんじゃなかろうか。それもこれも、このところやたらと仮面ライダーシリーズを観ているのが原因な気もするけど、とにかくバイクが作りたくなったのだ。
なにが素晴らしいって、たった2パーツでまずバイクの形が目の前に現れることだ。もちろんここからいろんなパーツがくっついてようやくバイクになるわけだけど、「完成しそうだ!」という予感が初手で味わえるプラモというのはなかなか少ない。ここで「タイヤだけ塗っておしまいにしようか、エンジンも塗ろうか、それとも全体を塗ろうか……」と考える時間もすごく良い。
戦後、ドイツの軍用車両は消防用に活躍したものも多いらしい、というのをTwitterで知った。どこか殺伐としたマシンが真っ赤に染められて平和な暮らしを維持するために使われる姿は愛らしく、模型的にもすごく映える。郵便でも消防でもいいけど、車輌が赤く塗ってあること自体がピースフルな感じがする、というのが面白い。そんなことを思いながら全体を真っ赤に塗った。
息を止めてタイヤを塗る。ホイールのリムに面相筆の先を引っ掛けて、くるり。真っ黒じゃなくて、少し紫がかったグレーを塗るとゴムっぽい感じが出る。はみ出したって、慌てず騒がず爪楊枝でコリコリと塗料をこそげ落とす。タイヤが黒くなっただけで、一気にバイクらしくなるのが嬉しい。静かだけど熱い、模型を作っているときにだけ感じる不思議な興奮。
こまごましたパーツを塗って、真っ赤なDKW NZ350が完成した。ナンバープレートの番号をどうしようとか、ホコリっぽい汚れを足してもいいな、なんて、ここから先の楽しみもまだ取ってある。ほんの少しの時間で、自分の好きな色に塗ったオートバイが目の前に現れるなんて、とっても嬉しい。タミヤのプラモだからこそ味わえるシャープさも味方して、休みの日のちょっとした時間がきっと素敵なものになるはずだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。