新谷かおる推薦、岡部いさく翻訳/史上最大の「ドラケン資料集」にプラモパワー、昂ぶる!

 フィンランド、ヘルシンキ・ヴァンター空港のほど近くに航空博物館がある。メインの展示室は巨大な建屋で、立体的に折り重なるようにして無数の飛行機が詰め込まれているのだが、入り口の奥にJ35ドラケンが鎮座する。周りにごちゃごちゃとした小さな展示物が置いてあって、飛行機のスタイルを捉えるのは少し難しいが、パッと見で「なんて小さな飛行機なんだろう!」と驚いたのを覚えている。

 まるでウルトラホーク1号みたいなカタチをしたこの戦闘機について、その生い立ちと全機体の来歴を漏らすことなく収めたとんでもない本が上梓された。『エリア88』でこの機体のターンアラウンドの短さ(帰投してから再度出撃するまでの準備時間の短さ)を知った人も、『マクロスΔ』に登場するウィンダミアの機体でその名前を知った人も、ドラケンについてなにか知りたければこの本を手に取ることをオススメする。

 原著はスウェーデン空軍に関する研究所を多数手掛けるミカエル・フォルシュルンド氏、翻訳はご存じ軍事評論家の岡部いさく氏が手掛けている。特筆すべきは、総ページ数208ページのうちディテール写真はわずかに16ページしかないことだろう(必要十分だとは思うが……)。

 模型を作るための資料として直接的に「どこがどんなカタチをしているか」というのを追いかけるならばほかにも適した本があるかもしれないが、歴史上存在していたドラケンの615機すべてについて、いつどこで生まれ、どんな生涯を送ったのかが淡々と記されている本はほかにない(ほか、試験機である「リルドラケン」についても詳しい)。

 カラーイラストと写真でバリエーション豊かな(北欧の卓越したセンスに彩られた)マーキングを眺めていると、みるみるうちにドラケンをこの手中に収めたくなる。数分悩んでハセガワの1/48ドラケンを発注すると、思わぬ出会いがあった。

 ダークグリーンの迷彩に白い機体番号のドラケンがパッケージに描かれており、完成見本もその仕様であるハセガワの1/48ドラケン(定番品)だが、ハコを開けるとそこには真っ赤な「39」の機番が印刷されたデカールが入っていた。高校時代に作った1/72モデルは(番号こそ違うが)グレーの機体に独特の書体でこの赤い機番が入っていて、「オトナになった今、1/48でもあれが作れたらな」と思っていたから、すごく嬉しいサプライズだった。

 ページを繰ると、ドンピシャで当該機の写真と塗装図が出現するのがこの本の素晴らしいところだ。なぜ機首の「10」は黄色で、主翼上面の「39」が赤なのか……みたいなことも、文字を追っていけば理解できる。遠い国の幻のような戦闘機を自分の知識の中に手繰り寄せ、より親密に、慈しみをもってプラモを作れるようになっていく過程は「考証」ともまた違う。本当にあったこと、確かに歴史の1ページとして存在していたことを知ることで、自分の作ろうとしているプラモがしっかりと地に足のついたものである安心感に繋がっていく。

 シンプルな形状の小型戦闘機ながら、活躍した地域のお国柄を強く反映して、さらに数多ある魅力的なマーキングの数々によって製作意欲をかきたててくれるサーブJ35ドラケン。資料を読むというのは、ただプラモの足りないところを補うための行為にとどまらず、その背後に広がるストーリーと我々の世界とを繋ぐ知的なコミュニケーションに他ならない。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。