戦車は強力な装甲と砲、旋回砲塔、装軌式の足周り、重い車体を動かす強いエンジンが結集したマシンです。F1マシンのように、どこの主力戦車も同じ要素をもちつつもデザインがそれぞれにあって、立体でもその個性を楽しむことができます。
扇状の装甲をもち平べったい姿。これがソ連最強と謳われたT-80戦車です。車高が低くコンパクト、しかし装甲は堅牢。試しにアメリカの戦車エイブラムスを並べてみたらサイズが全部一回り小さくてびっくりしました。エイブラムスがでかいというのを差し置いてもコンパクト。カクカクな戦車と丸い戦車、このフォルムの違いも印象的です。
今回組んだキットはトランペッターから発売されたロシア連邦軍T-80UD主力戦車 前期型です。箱がとにかくでっかっくて、中身もぎゅうぎゅう。プラスチック製パーツのほかに、細部を担当する金属のエッチングパーツ、そして一部パーツは布やゴム系の柔らかさを表現するために軟質系の素材が入っています。
こんな感じでぐにゅぐにゅできます。フロントなどに金属網を織り込んだゴム製のスカートがあって、それを再現するために軟質素材を選んだのでしょう。接着は通常の接着剤ではなくゼリー状の瞬間接着剤を使いました。
T-80UDはガスタービン式のT-80Uと異なりディーゼルエンジンを搭載しました。DはディーゼルのD、かはわかりませんが、模型ではこの車体後部上面のパーツこそがディーゼルエンジンタイプであることを示します。
トランペッターに限らず、ロシアの戦車の立体は多くがまずツルッとした車体を作って、そこに爆発反応装甲などオプションを積み増す組み立てになります。ケーブルやパイプ類のモールドがありますね。
戦車を組み立てるときは足周りに気をつかいます。トランペッターの戦車は組み立てられるほうですが、アームや転輪に遊びが大きいので接地するように、そして正面を向くように整えてあげましょう。
履帯はジグが付属していますが、自分は木の角棒に両面テープで必要枚数をずらっと並べてタミヤセメント(流し込みタイプ)を使って一気に接着し、30分のちに半乾きの状態でぐるっと巻く方式をつかいます。
数枚多いぐらいの84枚で巻き始めて、長過ぎたらブチッと剥がす。起動輪のギザギザにちょうど合うように上側のたるみをつけたり取ったりして長さを調整しましょう。
完成形だとフェンダーも分厚く盛られますが、最初はこのように板一枚。戦車の基本形を感じる部分ですね。T-80もそうですが、ソビエトロシアの戦車はこのうえに防弾を兼ねた燃料タンクをドカドカと追加するのです。そうして奥側のように車体と同じ高さのフェンダーが完成します。
ソ連戦車は本体の装甲のほかにも爆発反応装甲などどんどん装甲を積み増すので、裸の砲塔を見られるのも模型ならではです。ヨーロッパやアメリカ、日本などは装甲をつけて四角い砲塔にするのですが、ソビエトは装甲を内包した鋳造で丸い砲塔になっています。おまんじゅうみたいですね。
この素の砲塔に爆発反応装甲を取り付けます。お弁当箱のようなパーツをひとつひとつ、貼り付けるのです。うーん戦車工場の現場感が楽しいぞ。
とくに驚いたのはこちらの砲塔前側に取り付ける装甲です。V字の装甲にスカートのようなベロを取り付けていきながら、お前そんな感じの装甲なんだ……! と感慨にふけります。
トランペッターはT-80シリーズをたくさん出していますが、今回なぜ私が「T-80UD前期型」を選んだのかといえば、それはただ1点「私の思い入れ」にあります。私がこの手のミリタリーに興味をもったころ、T-80というのは最新鋭かつ最強の戦車でして、さらに改良型となりエンジンもディーゼルエンジンになったこのUDこそすごい戦車なのだ! というある種の刷り込みがあったからなんですね。また当時はソビエトロシアのプラキットというのは恵まれていませんで(それこそ鉄のカーテンが模型用の細部取材を阻んでいた)、T-80UDの良いキットに夢を見たということもあり、当時の憧れが結実したのがこの2021年のキットなんです。(T-80UD前期型が2021年8月に発売された新キット)
現在では車体や砲塔が四角く、砲塔側を無人にするなど先鋭的な思想をもった新たな戦車T-14を開発したロシア。今も昔も戦車強国としての技術があり、T-80はその結晶でした。その姿をしっかり再現したトランペッターのT-80シリーズは、技術の一端を感じることができるアイテムです。T-80UDは私の思い入れが爆発ですが、オススメですよ。
各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。