1000円でベロベロ。「プラモに酔う」が気になる人に、フラリと寄れるSměrの黄色い提灯を。

 「迷う理由が値段なら買え。買う理由が値段ならやめとけ」なんて格言がありますが、これはずっと身につけているものや一緒に暮らしていくものの話。プラモは値段で買ってもいいのよ。なぜなら10000円のプラモを失敗すると10000円ぶんの悲しみが訪れるけど、1170円のプラモなら失敗すら話の種になる。失敗しなけりゃお釣りが帰ってきます。だって1000円ちょいで複葉機の可愛い完成品は手に入らないもん。

 1/48の複葉機がなんでこんなに安いのか。その理由を話せば長くなるけど、これはもともと1957年にメリットというメーカーが発売したプラモデルだから。プラモデルが産声をあげた頃に存在したイギリスのメーカーの金型をチェコスロバキア社会主義共和国(現在ではチェコ共和国)の巨大なプラスチック用具の製造工場が引き取って、いまも淡々と製造しては安価に流通させているというわけ。Směrはセマーでもスメールでもなく「スムニェル」と読みます。日本語に訳すならば、「方角」という意味。

 共産主義時代に洗面器やおもちゃを作っていた工場の一角で、子どもたちのためにプラモデルを作っていたという歴史の名残が古い金型と驚くべき値札によっていまも受け継がれているのはなんだか不思議です。こういう話の流れだと「古いプラモだけど、いま見ても侮れないような完成度です!」なんて続きそうでしょ。

 箱から出てくるのは現代のプラモと似ても似つかぬ、ほとんどジャンクのようなパーツたち。太い枝にかろうじてしがみつくパーツ達は、とっても頼りない。「もっと出来のいいプラモがほしい!」というなら、選択肢はいくらでもあります。だけど、いましているのはガシーッと年季の入った建物で細々とやっているせんべろ居酒屋(築64年)のお話。

 シンプル極まりない説明書にビビりながら胴体のパーツをよく見ると、「B7270」なんてそれらしい番号が彫刻されていて、真ん中にはイギリス軍の識別マークの同心円も薄く彫り込まれています。この消え入りそうな線を頼りに昔のキッズはペタペタと筆を動かして「うーわ、うまくいかねえ!」と怒ったり泣いたりしていたのかもね。

 機体の彫刻とはぜーんぜん関係ない塗装図と、「国籍マーク、塗らなくても大丈夫だぜ!」と言わんばかりのデカールが2枚入ってました。しかも同じのが2枚。ほら、せんべろの居酒屋で調子よく飲んでると「サービス!」なんつってさつま揚げが2枚出てきたりしますよね(単純に工場でセットをミスっただけだと思う)。

 複葉機って、作るの難しいんです。木でできたところ、布でできたところ、強度が足りないから柱をいっぱい立てて、なんとも頼りない構造で恐る恐る飛んでいた時代の飛行機。華奢で、繊細で、美しい。だからこそ、「イマドキのすっごくシャキッとしたプラモで作ってみたい」という気持ち、同時に訪れる「そんなプラモで失敗したらどうしよう」という気持ち、すごくわかります。

 大丈夫、Směrの複葉機ならただ貼って塗って……以上のことをする余地がありません。もっともーっと精巧なものは、そういうプラモを作ったほうがぜーったいに近道です(とかいいつつ、Směrは古今東西のいろんなメーカーのプラモを扱うブランドなので、たまに「当たり」もあるのがおもしろいんだ、これが)。

 一旦立ち止まって、1000円ちょっとの軍資金で初めて入る居酒屋の引き戸をガラリと開けるときのこと、思い出してみてください。ビールとお通しと、アテを一品だけ頼んで、昔から住んでる地元のオヤジや女将の話を聞いて……。うーん、めちゃくちゃ美味かったわけでもないんだけど、なんだかいい時間だったな、なんつって。上の写真見たら、「あれ、意外とかわいいじゃん」と思うでしょ。

 僕らがふとプラモで酔いたいときに(でも高級なプラモでビクビクするのはちょっと嫌だな……というときに)、Směrの箱はいつも模型屋の棚に佇んでいるのです。ひっそりと、黄色いちょうちんみたいなロゴを灯しながら……。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。