プラモの説明書が絵になって。ハセガワの説明書は私のイチオシ

 串田孫一という作家がいて、私は彼が書く文章を読んだときに「こんなに綺麗な文章があるのか」と感心した覚えがある。豊富な語彙から巧みに飾り立てるような「文章とはこういうものだ」と見せつけるようなものではなく、私でも知ってるような言葉できっと正しい日本語で書かれているだろうエッセイは高原の水を飲むような爽やかさで、真似できそうで真似できない身近な良さがある。

 彼の山での出来事を書いた本はどれも面白く、山が特に好きではない私ですらも山に行きたくなる。出来事ひとつひとつが丁寧に書かれていてるのがその原因だと思うが、その反対側と言っても良いようなハセガワのA帯だとかB帯だとか言われる安い飛行機たちの説明書が私は好きだ。

 それらのハセガワの飛行機の説明書はシンプルだ。

 自分がどこにいるのか、今、何を組み立てているのかが記されることはほとんどなく、大まかな組み立て方を示したものが多い。まるで紙の地図を開いて知らない街を歩いている感じで、Googleマップのような詳しさは無い。ただ、その分頭の中に説明書全体がスッと絵として記憶される。どういうわけかシアンとブラックの2色印刷で作られているのだけど、これも頭の中に留めるには有効に作用する。

 買ってきたその日や、作ろうかなと思う前夜に箱を開けて説明書を広げて眺めてから風呂に入ったり、布団に入ったりしながら手順を思い浮かべて少しボーッとすると他のことも含めて整理されるような気がして、頭の中がスッキリする。

 X-29は漫画『エリア88』で主人公である風間真の搭乗機の一つだが、このキットはその独特な前進翼やカナードの組み合わさって何を意味するかを教えてくれるわけではない。形を追い求めることを最小限に記した図が頭の中に刻まれ、それが完成として目の前に現れる。

 この飛行機がどういうもので、どう活躍したのかといった記述も最小限に留められていて、さっぱりとしている。出来上がると、精密感のある姿というよりは、「達人の一太刀」といった具合のさっぱりとしたジェット機を手にすることができるのはどのキットも共通で「ハセガワは雰囲気が良い」とモデラーが話すことがよくわかる。

 さっぱりとした組み心地でなんとなく雰囲気の良いものを手に入れたいと思うたびに私はハセガワの飛行機に手を出す。これから自分がやることを頭の中で大まかに整理して、制作に臨む過程に「考えて作ったもの」という頭から生まれた何かが出来上がる喜びを気軽に感じることができるからだ。

クリスチ
クリスチ

1987年生まれ。デザインやったり広報やったり、店長やったりして、今は普通のサラリーマン。革靴や時計など、細かく手の込んだモノが好き。部屋に模型がなんとなく飾ってある生活を日々楽しんでいます。
Re:11colorsというブログもやっています。